細川忠興「兜の飾りは簡単に壊れる方がいい」の巻【こんなとこにもガバナンス!#30】
栗下直也:コラムニスト
「こんなとこにもガバナンス!」とは(連載概要ページ)
「兜の飾りは簡単に壊れる方がいい」
細川忠興(ほそかわ・ただおき、日本の武将)1563~1646年。細川藤孝(幽斎)の子。明智光秀の娘玉(ガラシャ)と結婚。本能寺の変では光秀の女婿にもかかわらず豊臣秀吉に味方した。関ケ原の戦いでは徳川方で軍功をあげ、豊前国小倉に移封。39万石。茶の湯を好んだことでも知られる。
個性と縁起、強さを「兜」で誇示した戦国武将
戦国武将の兜は奇抜なデザインも少なくない。目立てば敵に狙われることは誰もが分かり切っていながら、あえて武勇を誇示する。一目見れば馬上の正体がわかるような兜の飾り(立物)は武将のトレードマークだった。「うさぎ」「水牛の角」「鹿の角」くらいまでは理解できるものの、「なまずの尾」「熊の頭」「サバの尾」「カニのはさみ」「トンボ」「ハチ」などはちょっとグロテスクだが、それほど、いかに目立つかに心血を注いでいたかがわかる。
細川忠興は茶の湯、和歌、書など諸芸に通じるだけでなく、合戦で使用する武具にも造詣が深かった。独自に考案、製作した甲冑は機能性と優れたデザインが評判を呼んで、彼に兜を依頼する武将も少なくなかった。
現代のガバナンスに通じる忠興の考え方
ある大名が彼に兜を依頼したときの話だ。
忠興は快く依頼に応じて、仕様書に兜の立物に大水牛の角、頭部を守る鉢と接着させる角の下地に桐の木を使うと記し、大名の使者に渡した。
これを読んだ使者は「恐れながら」と尋ねた。「立物の下地には桐の木とありますが、合戦において物に当たれば、容易く折れてしまうのではございませぬか」。
そこで、忠興は表情を一変させる。「このような大きな立物は、折れやすい方が良いのじゃ。戦の最中に立物が何かに引っかかり、外れなくなれば、自由に身動きが取れなくなる。それ故、わざと折れやすいようにしておる」。
使者はまだ納得できず、問い重ねた。「されど、折れた後、そのままのなりではいかにも見苦しゅうございますが」。ここで忠興は笑い出す。「武士が一度戦場に出れば、生きては帰らぬ覚悟で戦うのが当たり前。立物が折れた後どうするかなどと考える前に、命が奪われぬようにする思案をなされよ。戦で大いに働き、立物まで折れたとなれば、尚更その奮戦ぶりが称えられよう」。
実は、忠興に限らず、立物の多くは桐などの木でできていて、見かけの大仰さに比べてきわめて軽かった。彼らはあくまでも「戦につかう兜」であることを重視しながら、デザインにもこだわった。
兜のデザインもひとつ間違えば戦場で命を失いかねない。これは現代の「ビジネスの戦場」でも同じだ。たとえば、ガバナンスの目的は何か、そのためには何を優先して、何を捨てるべきか。この意識がなければ、いくら制度を整えたところで、うまく機能しない。
(月・水・金連載、#31に続く)
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