トヨタ・石田退三「自分の城は自分で守れ」の巻【こんなとこにもガバナンス!#37】
栗下直也:コラムニスト
「こんなとこにもガバナンス!」とは(連載概要ページ)
「自分の城は自分で守れ」
石田退三(いしだ・たいぞう、実業家)1888~1979年。代用教員、呉服店の店員を経て、名古屋の繊維会社で豊田佐吉の知遇を得る。1927年、豊田紡織入社。48年豊田自動織機社長、50年倒産寸前のトヨタ自動車が工業、販売に分離した際、工業部門の社長を務め、労使紛争を収束させる。徹底的な合理化で、トヨタを日本一の高収益企業に育てた。トヨタの中興の祖とも呼ばれる。
倒産危機を救ったトヨタの大番頭
「経営の神様」と呼ばれた松下幸之助が「経済界の人間国宝」と絶賛したのが「トヨタ中興の祖」石田退三だ。石田は財界活動に積極的ではなかったこともあり、最近では知る人ぞ知るという存在になってしまったが、高収益企業の足場を固めた業績はもっと評価されるべきだろう。
トヨタは戦後の混乱期に労使紛争に巻き込まれ、倒産寸前にまで追い込まれる。銀行主導でリストラが進み、融資の条件に製造部門(トヨタ自動車工業)、販売部門(トヨタ自動車販売)の分離や創業家である経営陣の刷新を求められた。
この危機の中、トヨタ自動車工業の社長に就いたのが石田だ。当時、豊田自動織機製作所の社長だったが兼務する形になった。石田はトヨタグループの自動車分野への進出に反対したことで、降格させられていた過去があった(当時は豊田紡織の重役だったが監査役に格下げされた)。そうした経緯があったにもかかわらず、会社の番頭格として、火中の栗を拾い、経営立て直しに奔走した。
業績の回復次第、豊田家に大政奉還する方針を株主総会で表明していたが、創業家の豊田喜一郎が急逝したこともあり、社長在任は11年に及んだ。
超ケチだからこそ「自分の城」を守れる
朝鮮戦争の特需も大きかったが、徹底的なコスト削減が業績の急回復と持続成長をもたらした。乾いた雑巾をさらに絞ると表現された徹底的な効率化を進めた。無駄金をびた一文つかわない姿勢はときにケチケチ経営と揶揄されたが、経営の自主自立性を守るために、安易な借り入れを戒めた。内部留保を厚くする経営哲学は「トヨタ銀行」と呼ばれる強固な財務体質をつくりあげた。
石田がトヨタ倒産の危機に陥った時に、ある銀行に融資を申し込んだところ、ろくな担保もなかったことから「お断わりします」と相手にされなかった。これがトヨタの無借金経営の原点ともいわれる。「自分の城は自分で守れ」。今につながるトヨタの強さは地獄を見た石田がつくりあげたといっても過言ではない。
(毎週水曜日連載、#38に続く)
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