髙田明・ジャパネットたかた創業者「ガバナンスを動かすのは他者への愛情だ」【新春インタビュー#5後編】
髙田 明:ジャパネットたかた創業者・A and Live代表取締役
元日の前編から続くジャパネットたかた創業者の髙田明氏の新春インタビュー後編。テレビショッピング10周年のまさにその時発生した情報流出事件や、現在も心血を注ぐ地元・長崎の振興などの話題をもとに、髙田氏が独自のリスクマネジメント、そしてコーポレートガバナンスを語る。
情報流出、ガバナンスを見直す機会に
(前編から続く)2004年の顧客情報流出事件の時、経営者として辛くなかったと言えば嘘になります。でもそれは、自分自身に対して辛いということではなく、事件が起きたことによって、応援してくれている消費者、お客さん、関係者のみなさんに対しての信頼を損なうことが一番辛かった。そこだけは絶対に守らなきゃいけない、それを守るためにどうしたらいいかを考えに考え抜きました。
あの時はちょうどテレビショッピング開始10周年の年。タレントさんと出演したテレビ番組も撮影が終わっていて、商品もメーカーと契約を済ませ、放送局の枠もすべて押さえていました。
そういう状況の中で04年3月に新聞記者の取材で突然知らされることになりました。まだ何も分からない状況でしたが、夕方の報道に間に合わないということで、急遽、記者会見を開いて記者からの質問を全部受けました。これから会社をどうするかということは、僕と妻、一部の幹部の間で「すべての営業を停止する」としました。
情報流出の解決を優先しないと、消費者に対して申し訳が立たないと思ったからです。一方、ジャパネットたかたは成長している時でしたから、計算すると、年間150億円規模の損失に膨らんだというのも事実です。
それでも、すべて止めた。ちょうど翌05年に個人情報保護法が全面施行される時期で、体制整備をしないといけないタイミングでもありました。後からジャパネットたかたの対応を褒めてもらえることもありましたが、特別なことではないんです。その時に必要な対応を行った、それだけです。
一方、これを機にコーポレートガバナンスや内部統制の問題で、いろいろと取り組みました。社内(データセンターなど)に監視カメラを設置したり、システムの脆弱性を改善したりと、外部の協力を得て体制を整えました。
特に苦しかったのは、監視カメラの導入。見方によっては、社員を信用していないように思われてしまうのではないか……。そこで社員を集めて言いました。「会社の中にカメラが置かれることは嫌かもしれないけど、カメラを設置するのは、みなさんの身の潔白を宣言しているに等しいこと。その点を理解してほしい」と。
やはり、体制を整えていなかったのはトップの責任です。内部統制、当時はあまり言われていませんでしたが、ガバナンスをしっかりしないといけないと自分自身で痛感する事件でした。
そもそも何のために企業がビジネスをやっているのか。
売り上げを上げて利益を上げていかないと社員やその家族も養えませんし、税金を支払わないと社会のためにもならない。それは当然です。でも、「何のためにジャパネットたかたという会社があるのか」ということをみんなで見直す機会になったと思うんです。「商品を通して人を幸せにする」っていうことを改めて強く感じ、再認識しましたね。
人は人のために生きてこそ、人なのです。
社員のモチベーションを上げるというのは、休みが多いとか、給料が多いとか、もちろんそれも大事です。しかしもっと根底にあるのは、会社のミッション、目指しているもの、社会のため、他人様のために企業はあるんだと感じられること。そして、それが働く人それぞれの生き方の中のミッションと一致した時に、一生懸命働けると思うんです。そういう環境を企業はつくっていかなければいけないのでしょう。
昨今、さまざまな企業で不祥事が起きています。たまたま起きる場合もあるでしょうが、その根本的な部分がいつの間にか忘れられて、不正を防ぐ制度があっても、それが形骸化していく中で起きているのではないでしょうか。
ジャパネットの社員教育では、そういう根本的なことを忘れないようにしてきました。
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