【八田進二の「監査とガバナンスの未来」#4】昭和31年「監査報告準則」の制定と“但書”で歪められた「継続性の原則」

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昭和31年、新設された「監査報告準則」

昭和31年(1956年)12月の監査基準改訂で新たに設けられたのが、前回の通り、「監査報告準則」である。

そもそも、監査報告書は財務諸表監査の結論としての監査人の意見表明書なのである。つまり、監査人の意見の表明は、「財務諸表が企業の財政状態および経営成績を適正に表示しているか否かについてなされるもの」であるが、1950年(昭和25年)に監査基準が制定された時点では、監査報告準則は制定されておらず、実質的に、監査人の最終結論とされる総合意見の記載については予定されていなかった。

つまり、最終意見に到達する前の個別意見、すなわち、①企業が採用する会計処理の原則および手続が「企業会計原則」に準拠しているか否か(いわゆる「企業会計原則準拠性」)、②企業が採用する会計処理の原則および手続が当年度も継続して適用されているか否か(いわゆる「継続性」)、そして③企業の財政状態および経営成績に関する財務諸表の表示についての意見(いわゆる「表示の妥当性」)についての記載は要請されているものの、最終意見としての「適正表示に関しての監査意見」についての規定はなかった。

それは、すでにみたように、わが国において新たに公認会計士による監査を導入し、かつ、企業の監査受け入れ態勢を整備することに主眼を置くための監査ということで、いわゆる「制度監査」がなされてきたことによるものである。

そのため、1957年(昭和32年)1月から始まる正規の監査に際しては、監査制度の根幹をなす監査報書の記載に関して、監査報告準則の「一 監査報告書の記載方式」で「監査人は、監査報告書にその実施した監査の概要及び財務諸表に対する意見を明瞭に区別して記載し、作成の日付を付して署名捺印しなければならない。」と定められることとなったのである。

そして、「二 監査概要の記載」では、監査人は、実施した監査の概要として、「1 監査人が実施した監査範囲の概要」「2 監査が監査基準に準拠して行われたか否か」そして、「3 正規の監査手続及びその時の事情にかんがみ必要と認めた監査手続が実施されたか否か」を記載しなければならないとしている。

さらに、「三 財務諸表に対する意見の表明」では、いわゆる「企業会計原則準拠性」「継続性」そして「財務諸表の記載様式および記載事項の準則準拠性」の3つの個別意見を記載するとともに、「財務諸表が企業の財政状態および経営成績を適正に表示していると認めた場合」には、総合意見として、その旨を記載しなければならないということで、監査人の最終結論である適正性の意見の表明を定めているのである。

「企業会計原則」の例外規定となった継続性についての「但書」

ところで、①財務諸表の重要な項目について、正規の監査手続が実施可能にして合理的であるにもかかわらず省略された場合、②財務諸表の重要な項目が「企業会計原則」に準拠せずに処理された場合、③企業の採用する会計処理の原則および手続について、当期純利益に著しい影響を与える変更が行われた場合、そして、④財務諸表の重要な項目が、財務諸表の記載様式および記載事項に関して特に設けられている準則に準拠せずに処理されている場合、については、その旨およびその理由、並びに、②と③の場合には、その財務諸表に及ぼす影響を記載しなければならないと定められている。

つまり、上記の①は、いわゆる監査手続の制約ということで、監査人が実施した監査の概要区分において記載される限定事項といえる。一方、②(企業会計原則準拠性違反)、③(継続性違反)、そして④(表示方法の基準準拠性違反)としての記載は、監査人の個別意見に関する限定事項なのである。

しかし、②に関しては、さらに「但書」があり、「正当な理由による期間利益の平準化または企業の堅実性を得るために行われている場合を除く」として、継続性違反に該当しない場合についての記載がなされていたのである。これは、「企業会計原則」の一般原則の五の継続性の原則での下記の規定内容に対する例外規定になっていたのである。すなわち、

「企業会計は、その処理の原則及び手続を毎期継続して適用し、みだりにこれを変更してはならない。
 正当な理由によつて、会計処理の原則又は手続に重要な変更を加えたときは、これを財務諸表に注記しなればならない。」

つまり、企業会計原則に則っての会計制度においては、この「期間利益の平準化」や「企業の堅実性の確保」といった理由は、「正当な理由」の範疇に属するものではなく、明らかに経営者の恣意性が介在する利益操作の一環として考えられるべき会計処理ではあるが、当時のわが国の経済環境および会計制度の下では、容認せざるを得ないものと解されたようである。

それは、会計上の判断とは無縁の企業経営者の経営判断ないし経営政策のために会計理論から著しくかけ離れた会計政策が行われた場合にあっても、それが、当該「但書」に掲げられているような理由に基づくものである以上、財務諸表は企業の財政状態および経営成績を適正に表示しているとみなすというものだったのである。

東京タワーの竣工は1958年(昭和33年)12月

拍車をかけた大蔵省省令と通達

そして、こうした状況に拍車をかけたのが、1957年(昭和32年)に制定された、大蔵省(当時)の「財務諸表等の監査証明に関する省令」(以下、「監査証明省令」)および「財務諸表等の監査証明に関する省令の取扱いについて」(以下、「取扱通達」)の規定である。すなわち、継続性の適用および変更に関して、「監査証明省令」の第4条第3項第2号では、監査報告書における個別的な記載事項として、以下の記載を要求している。

「財務諸表の項目が当該財務諸表に係る事業年度の直前の事業年度と同一の基準により処理されているかどうか、被監査会社が基準を変更した場合において、当該変更が当該財務諸表に著しい影響を与えていると公認会計士が認めた場合(当該変更が正当な理由に基いて行われていると認めた場合を除く。)には、その旨、その理由および当該変更が当該財務諸表に与えている影響」(太字部分は筆者)

これを受けて、「取扱通達」の7では、上記既定の後段括弧内にいう「正当な理由」に該当する場合の基準の1つとして、下記の規定がなされていたのである。

 「季節的影響を受ける事業を営む会社が、その影響による上期と下期の期間利益の変動を適正に調整するため上期と下期との間に会計処理の変更を行う場合で、その変更が毎年同一の基準に従つてなされている場合」

加えて、「取扱通達」の10では、「監査証明省令」に規定の「公認会計士が認めた場合」の意味について、「何が『重要な』項目、『著しい』影響、『正当な』理由又は『重要な』事項であるか、については、公認会計士がその健全な常識によって最終的に判定するものであるという趣旨を規定したものであることに留意する」との解釈を示しているのである。

こうした規定からも明らかなように、監査上の運用面において、「正当な理由」と称される具体的な項目を列挙するとともに、継続性の変更理由の当否に関しては、そのすべてを公認会計士の判断にゆだねることで、継続性の要請を満たそうとしたのである。

なお、その後の1964年(昭和39年)8月に改正された「監査証明省令」の第4条第3項第2号では、以下のような規定に改め、会計処理等の変更が正当な理由に基づいている場合にあっても、監査人は、監査報告書における個別的記載事項として、「当該変更があった旨」についてだけではあったが、正当な理由に基づいていない場合の変更と同様に、その記載を義務付けることとしたのである。

財務諸表の項目が当該財務諸表に係る事業年度の直前の事業年度と同一の基準により処理されているかどうか、財務諸表の重要な項目が同一の基準により処理されていないと認められる場合において、その基準の変更が正当な理由に基づいていると認められるときは、当該変更があつた旨、その基準の変更が正当な理由に基づいていないと認められるときは、その旨、当該変更が正当な理由に基づいていないと認められる理由及び当該変更が財務諸表に与えている影響

恣意的な「期間利益の平準化」が認められた背景

ところで、こうした制度上の取扱いが採用された背景についても、確認しておきたい。というのも、当時のわが国の株式会社においては、半年決算が前提となっており、そのため、季節的変動の激しい企業等の場合には、期間利益においても変動幅が極めて大きいということが指摘される。そのため、株主においても安定的な利益配当等が期待できず、また、企業としても、安定的な経営を想定しえないということから、「期間利益の平準化」といった、極めて恣意的経営行動を認めざるを得なかったということであろう。

さらに、当時のわが国の株式会社の多くは、いまだ財政的な基盤が脆弱な会社も多く、国家的な支援の下でわが国経済の発展に寄与してもらいたいといった意向の下、「企業の堅実性の確保」が重要な政策とされたものといえる。それは、わが国経済を支えてきたのは、とりもなおさず、中小企業レベルの会社が大半であったという、わが国企業の特殊性からも、採用された監査対応であったといえるのである。

昭和41年改訂監査報告準則で「但書」は削除されるも…

なお、その後、1966年(昭和41年)4月改訂の監査報告準則では、この継続性の変更に関する「但書」は、本文から削除されることとなった。しかしこの「但書」の削除に伴って、当時の監査関係者、すなわち、日本公認会計士協会、経済団体連合会および大蔵省(金融庁の前身)の三者間における覚書ないし念書として、以下のような「了解事項」が公表され、実務上の配慮を施した取扱いが図られることとなったのである。

了解事項(昭和41年4月26日)

 証券取引法による監査証明に関して、新監査報告準則を運用するに当り、関係者(日本公認会計士協会、経済団体連合会、大蔵省)が、その運用方針及び解釈について次のとおり了解した。

一 前監査報告準則三の(三)の3の但書は、今回の改正において削除されることになったが、この但書の削除により、従来の証券取引法に基づく監査証明における取扱いは、なんら影響を受けないものとする。なお、この但書に関連する個別的な問題については、別に検討する。

二 新監査報告準則三の(二)(不適正意見の表明の場合;筆者挿入)に定める除外事項には、監査手続に関する除外事項は含まれない。したがって、監査手続に関する重要な除外事項を理由として、同準則三の(二)の不適正意見を記載することとはならない。

三 会計処理の原則又は手続の変更で正当な理由に基づくものは、財務諸表に与える影響が金額的に大であっても、新監査報告準則三の(二)にいう「特に重要な影響を与えている」ものに該当しない。

このように、企業会計原則上は正当な理由による変更とは認められない、「期間利益の平準化」と「企業の堅実性の確保」を理由とする変更については、昭和30~40年代当時にあっても、理論的な視点から多くの批判があったため、本文からは削除されることとなった。しかし、実質的な取扱いについては、何ら変更はなく、それどころか、昭和41年の了解事項の三において、こうした経営政策を理由とした継続性の変更については、監査報告上、不適正意見の表明がなされる余地はまったく無くなったのである。

加えて、その後の監査制度の発展と度重なる監査基準等の改訂を経ても、この「了解事項」の扱い方については、明示的な対応がなされてきていないという事実は指摘しておきたい。

(#5につづく)

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