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【オリエンタルランド秘史#4】ファンドが狙う「京成電鉄」OLC筆頭株主の源流

浦安の“大三角”を巡って狐と狸の化かし合い

登場人物

  • 高橋政知 オリエンタルランド第2代社長。三井不動産社長、江戸英雄に誘われる形でオリエンタルランドに専務として入社。
  • 藤生実太郎 不動産ブローカー。浦安沖の「大三角」(デルタ)に着目し埋め立てを構想、オリエンタルランド設立のきっかけをつくる。#2#3参照
  • 江戸英雄  三井不動産社長
  • 川崎千春 オリエンタルランド初代社長、京成電鉄社長。米ディズニーランドを視察し、日本版ディズニーランドを夢想。#2参照
  • 丹沢善利 朝日土地興業社長。千葉・船橋沖を埋め立て「船橋ヘルスセンター」(現在はららぽーとTOKYO-BAY)を開業。三井不動産社長の江戸、京成電鉄社長の川崎に浦安沖埋め立ての協力を要請。

オリエンタルランドは京成電鉄、朝日土地興業、三井不動産がそれぞれ32%を出資する形でスタートした。残りの4%が問題だった。初代専務を務めた土地ブローカーの藤生実太郎が出資する形をとったのだが、創業11カ月後の1961年6月に逮捕され、オリエンタルランドから追放されてしまう。藤生の出資分を肩代わりしていた京成電鉄に4%が加わり、3社の均衡が崩れた。以降、現在まで京成電鉄が筆頭株主としての位置を占めることになる。

現在の京成電鉄本社(千葉・市川)

千葉県浦安町(現浦安市)の57万㎡のデルタ「大三角」買収のためにカネをばら撒いた贈賄容疑で起訴された藤生は1962年7月、懲役1年執行猶予3年の判決を受ける。この程度で済んだのは、捜査に当たっていた東京地検の検事の7人中6人が途中で武州鉄道汚職事件に駆り出されてしまったからだ。東京・三鷹市と埼玉・秩父市を結ぶ鉄道路線の計画の過程で起こった汚職事件で、政財界の2300人が取り調べられる大疑獄に発展した。大三角をめぐる贈収賄事件は拡大することなく、捜査は打ち切られた。

執行猶予判決を受けた藤生はオリエンタルランドに姿を現そうとはしなかった。困ったのは経営陣である。追い出したものの、この男にはやってもらわなければならないことが残っていた。大三角の名義は藤生実太郎のままだったのだ。ただ、経営陣もそのあたりは抜かりのないつもりだった。京成電鉄とオリエンタルランドの社長を兼任していた川崎千春は、藤生をまったく信用していなかった。大三角の代金1億2500万円をオリエンタルランドから出す際、会社側がいつでも名義変更できるように、その旨が記された全面委任状を藤生から出させていた。

それ以前になぜ、大三角の売買契約が結ばれる際、オリエンタルランドではなく、藤生の名義になったのか。藤生が浦安町に提出した払い下げを求める申請書には、日大第3代総長を務めた山岡萬之助の町長宛ての書簡が添えられていた(#3参照)。そこには日大系工業高校を大三角に設立することが決定し、敷地完成までの一切を藤生に一任すると書かれていた。浦安町の町議会正副議長や各常任委員長が山岡を訪ね、その内容が事実であると確認した。つまり、浦安町としては、あくまでも払い下げの相手は藤生でなければならなかったのだ。

だが、山岡は当時、すでに80代半ば。名誉総長の肩書はあったが、すでに日大の現役ポストからは退いていた。しかも、山岡邸に赴いた浦安町幹部たちはいずれも藤生が飲ませ食わせ、カネをつかませた面々だった。この売買劇は最初から最後まで藤生のペースで進んでいったのである。

「約束を守らない企業」のレッテル

全面委任状はあっても、大三角の名義替えはすぐにはできなかった。川崎千春が委任状と権利書を照らし合わせると、印鑑が別であることが判明した。委任状に押されている印鑑はオリエンタルランド側が預かっていたので、名義替えはいつでもできるつもりでいたのだ。ところが、藤生実三郎なしには一歩も前に進めなかった。検察も控訴せず、執行猶予判決が確定していた藤生だが、なかなかコンタクトがとれなかった。そんな時、川崎の耳に、藤生が大三角を第三者に売ろうとしているとの情報が入ってきた。政商や学校経営者と頻繁に会っているという。

ここで動いたのが藤生と入れ替わるようにオリエンタルランドに入社し、専務に就いた高橋政知だった。藤生となんとか接触した高橋は名義替えに応じるように要求した。178cm80㎏と1913年生まれとしては体格が大きかった高橋の威圧感は相当なものだった。顔もいかつかった。といっても、藤生もその程度ですんなり相手の要求を呑んだわけではない。危ない橋を何度もわたってきた男である。激しいせめぎ合いの末、オリエンタルランド側が藤生に8000万円を払うことで決着した。その後、藤生は行方知れずになっていたが、数年後、亡くなったと浦安に風の便りが届いた。

浦安町への1億2500万円と合わせ、計2億円余りでオリエンタルランドは大三角の所有権を掌中に収めたはずだった。だが、そこで話は終わらなかった。大三角の払い下げは高校招致が条件だったが、町の再三の要請にもオリエンタルランドは履行する姿勢を見せなかった。1972年、町にさらに4億円を支払うことでようやく終止符が打たれたが、地元のオリエンタルランドに対する不信感は募るばかりだった。

(文中敬称略、#5に続く

シリーズ#1はこちら “物言う株主”が噛みついた「資…
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