【オリエンタルランド秘史#12】京成電鉄「経営危機」でも守り抜いた筆頭株主の座
客単価重視にシフトするTDRのキャスト問題
(#11から続く)オリエンタルランドが東京ディズニーシー(TDS)で新たに開発を進め、今年6月にオープン予定の「ファンタジースプリングス」の全容が明らかになった。この新エリアの総開発面積約14万㎡は拡張した広さとしては過去最大。ディズニー映画「アナと雪の女王」「ピーター・パン」「塔の上のラプンツェル」を題材とした3つのエリアで構成される。
注目はその料金体系だ。ファンタジースプリングスの全アトラクションを待ち時間なく何度も体験できるチケットは、エリア内に開業するホテルの宿泊者限定。 1日券は大人2万2900~2万5900円、中高生2万1600~2万4000円、幼児・小学生1万9700~2万600円。混雑具合によって料金が変わる変動価格制はすでに実施しているが、TDSの通常の7900~1万900円に比べるとかなり高い。ホテル代も加わるとなると、近場の短期の海外旅行とそれほど変わらない金額になる。
狙いは客単価の引き上げ。入園者数は下がっても構わないという考えだ。その背景には人手不足がある。オリエンタルランドの非正規雇用の割合は8割近く。TDSを含む東京ディズニーリゾート(TDR)は「キャスト」と呼ばれる時給で働く準社員・アルバイトで成り立っている。これは利益至上主義が徹底されている米ディズニーワールドの方式に倣っているともいえる。従業員の多くはアルバイトで、最低賃金に近い額で働いている。彼らの夢の国で働きたいという思いが、賃金水準を抑え込む原動力になってきた。この米国方式がそのままTDRでも使われたのだ。
だが、次第に十分な人手を確保するのが困難になっていく。昨年4月、キャストの時給を一律80円引き上げ、1140~1530円にしたが、人手不足を解消する効果は薄かった。賃金水準に見合わない厳しい労働環境が広く知られるところとなっているのだ。2018年には2人の女性キャストが相次いでオリエンタルランドに対して訴訟を起こしている。ひとつは上司からパワハラを受けたというもので、千葉地裁では企業の安全配慮義務違反を認めたが、昨年6月、東京高裁で原告が逆転敗訴している(#3参照)。もう一人の原告は重さ10~30㎏の着ぐるみをまといショーに出演し、過重労働で負傷したという女性。昨年12月26日、千葉地裁は企業側が体調を自己申告させ対応していたとして、原告の請求を棄却した。
いずれもキャスト側の訴えを退けたものの、裁判の過程でその苛酷な勤務実態が明らかになった。それでいながら、ショーに出演していた女性の時給は1100円(当時)だった。片や、6月にオープンするファンタジースプリングスで遊べば、ホテル代を合わせ、かかる費用は1人4万円を超えるのは確実と見られている。彼我の差はあまりに大きいが、そんな場所で働きたいと思うZ世代がどれだけいるのか。いずれにせよ、オリエンタルランドが客数よりも客単価に重きを置くようになった背景は、単純と言える。
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