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【オリエンタルランド秘史#12】京成電鉄「経営危機」でも守り抜いた筆頭株主の座

“お荷物”百貨店事業では元社長による詐欺も発覚

一方、京成電鉄の経営陣にとってショッキングなニュースが飛び込んできたのは今年1月18日のことだった。子会社の水戸京成百貨店の元社長が逮捕されたのである。2020年9~10月、国の雇用調整助成金を騙し取ったという詐欺容疑である。出勤していた従業員のデータを改竄し休業日を水増し。計1億3300万円を詐取していたという。逮捕された元社長は京成電鉄出身。16年から21年5月まで水戸京成百貨店の社長を務め、その後はグループ企業の役員に就いていた。なお、同社が20~22年の間に不正受給していた額は3億円を超えることがわかっている。

不正に手を染めたのはそれだけ経営が悪化していたからだ。かつて京成電鉄グループは5つの百貨店を擁していたが、現在営業しているのはサテライトを除き、茨城県水戸市の1店舗だけ。百貨店事業はグループのお荷物となっていた。その遠因をつくったのはオリエンタルランド初代社長・川崎千春である#8参照

1958年に京成電鉄の社長に就いた川崎はずっと焦りを感じていた。公共事業の鉄道に専念していても先細りなのは見えていた。何より企業人として面白みを感じることができなかった川崎は70年代に入って百貨店事業への進出を決断する。東急、西武、東武、小田急、京王といった首都圏の私鉄各社はすでに百貨店を持っていた。東急は1934年に渋谷で開業。遅かった小田急や京王でも60年代前半には参入していた。京成電鉄が手がけようとする頃には高度成長期が終わり、小売りは安売りのスーパーマーケットが主流になりつつあった。百貨店の将来の斜陽を予感させる中、オイルショックが直撃。川崎の目論みは見事に外れたのだった。

さらには不動産投資の失敗もあり、京成電鉄の業績はみるみる悪化していく。電鉄の経営に専念するため、川崎はオリエンタルランドの社長を退任するが、もはや手の打ちようがなくなっていた。

銀行団と旧運輸省の支配に下った京成電鉄

1977年9月21日、京成電鉄の会議室にメインバンクの三井信託銀行(現・三井住友信託銀行)、日本興業銀行(現・みずほ銀行)、日本生命など、取引金融機関9社の首脳が集まっていた。川崎千春の呼びかけに応じたものだ。このままでは9月分の資金繰りが立ち行かなくなるという。9社の支援を取りつけ、なんとか資金ショートは免れたが、77年度は93億円の経常赤字を計上し、1909年の創業以来、初めて無配に転落した。翌78年度はついに経常損失が100億円を超え、銀行団は川崎に実質的に引導を渡す。79年6月、21年の永きにわたって務めてきた社長を退任。会長には踏みとどまったものの、川崎派と目される幹部の多くは閑職に追いやられた。

かつては中興の祖とも持ち上げられた川崎の代わりに社長に就いたのは運輸省(現・国土交通省)で事務次官を務めた佐藤光夫だった。自主再建の道が閉ざされた京成電鉄は以降、運輸省と銀行による支配が続き、再び生え抜きの社長が復活するまでに19年を要した。それでも同社にとって幸いだったのは、その間もオリエンタルランド筆頭株主の座だけは守れたことだった。そしてそれが現在まで続き、いまや最大の資産となっている。

川崎は会長を2年務めたあと一線を退き、1991年6月88歳で亡くなった。生前も死後も銀行団にオリエンタルランド株の売却を躊躇わせたのは、川崎のディズニーランドへのあまりに強い思いが亡霊のように立ちはだかっていたからかもしれない。

(文中敬称略、#13に続く

シリーズ#1はこちら 客単価重視にシフトするTDRの…
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