【会計士「自主規制」機能喪失#1】会計士の“職域”を溶かす「サステナ情報保証」という外圧
《過度な節税指南に待った 会計士倫理の国際組織が新基準 議長「企業の評判にリスク」》――。日本経済新聞(6月27日付朝刊)にこんなタイトルの記事が掲載された。国際会計士倫理基準審議会(International Ethics Standards Board for Accountants:IESBA)のガブリエラ・フィゲイレード・ディアス議長へのインタビューをもとにしており、記事は〈企業の行き過ぎた租税回避行動を減らすため、会計士の倫理基準を開発する国際組織が動く〉と切り出している。
会計の門外漢がこの記事を読むと、あたかも、日本の公認会計士が「過度な節税指南」を行っており、新たな国際基準がなければ、その傾向に歯止めがかからないかのような印象を与えかねない。ところが、実のところ、日本では監査法人の立場では税務のアドバイスをすることなどできない。税務に関するアドバイスについては、監査法人とは離れて、別途、会計士が税務士業務の一環として行う場合があるに過ぎないからだ。
確かに、日経記事も〈日本では税務支援は税理士が担う〉としている。にもかかわらず、ディアス議長の発言として「各国当局には『会計士』という肩書の有無に関わらずタックスプランニング支援者に我々の基準を使ってほしい」との要望を掲載しているのである。そもそも彼女の発言はわが国の会計士の実態を正しく理解したうえでの発言なのか、あるいは、日経新聞自体が、IESBAという組織の真意をきちんと理解したうえでディアス議長の発言を切り取っているのか、大いに疑問を持たざるを得ないのである。
なぜ、この日経記事をこれほど問題視しているのか。それは、近時のIESBAの動きに代表される“外圧”が、戦後長らく先人たちが育んできた日本の会計士業界の制度的根幹を掘り崩しかねない、との危惧を抱いているからだ。中でも、会計士倫理の在り方をめぐり、今、一体何が起きているのか。そこで、現在IESBAが主導する会計士の倫理基準の見直しに関する地殻変動とその背景について、3回にわたって私見を交えながら解説したい。
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