【オリエンタルランド秘史#2】三井不動産×京成「浦安の埋立会社」と“酒豪の傑物”
(#1から続く)日本経済新聞が集計した「1~8月に時価総額を伸ばした銘柄」ベスト10の中に、トップのトヨタ自動車、三菱商事、ホンダ、日立製作所、ソニーグループなど日本を代表する企業に混じって、第10位に東京ディズニーリゾート(TDR)を運営するオリエンタルランドが入った。時価総額は9兆5400億円。8カ月間で2兆5700億円増やした。
東京ディズニーランド(TDL)と東京ディズニーシーを合わせたTDRの2024年3月期の来園者数はTDL開園40周年イベント効果もあって前年度から300万人以上を増やし2510万人を見込む。TDL開園35周年の2019年3月期に記録した過去最高の3255万人には及ばないものの、コロナ禍の影響がまだ残る中では大健闘といえた。しかも、10月には変動価格制の入場券の最高価格を9400円から1万900円に引き上げ、客単価の大幅増を見込んでいるのだ。
日本にディズニーランドを呼び、TDRの礎を築いたオリエンタルランド2代目社長の高橋政知が亡くなって四半世紀近く。今まさに企業としての絶頂を迎えつつある。
底なしの飲みっぷりに期待され
三井不動産の江戸英雄の気風の良さに心酔した高橋政和はことあるごとに酒を酌み交わすようになる。最初の出会いではヒラの取締役だった江戸は5年後の1955年、社長に昇格。肩書は変わっても2人のつきあいに変化はなかった。高橋はたびたび東京・下落合の江戸の自宅に呼ばれ、徹底して飲んだ。高橋が酒を覚えたのは東大時代である。父の晩酌につきあわされたのだ。
父の太田正弘は福島、石川、熊本、新潟、愛知の県知事、警視総監、台湾総督を歴任した内務官僚だった。姓が違うのは、高橋は結婚すると相手先の婿養子に入ったためである。太田は酒なら誰にも負けないという人物で、勉強のために机に向かおうとする息子を引き止め、茶碗で酒を飲ませた。高橋もいつのまにか、底なしの酒豪になっていた。
その飲みっぷりを驚愕の目で見ていた江戸は、これは使えると気づいた。高橋に埋め立て事業を手伝ってほしいと頼んだのだ。のちにディズニーランドを建設することになる浦安の海を埋め立てるには、地元の漁民との交渉が不可欠だった。漁業権を手放してもらわなければ、事業にはとりかかれない。説得のために漁民たちと酒を酌み交わし、信用を得なければならなかった。高橋は適任だった。
高橋は江戸の頼みをいったんは断っている。その頃、高橋は江戸の推薦で日本文化住宅協会という財団の役員になっていた。同協会は国から払い下げられる東京・武蔵野市の中島飛行機の跡地に1200戸の住宅を建設する計画を立てていたが、その代金の納付が1カ月遅れたことを理由に、大蔵省(現財務省)が契約を解除してしまった。協会は訴訟を起こし、1審では敗訴したものの、2審では逆転勝訴。住宅建設が本格化すれば忙しくなり、埋め立てに加わっている暇はなくなるはずだった。
ところが、最高裁で差し戻し判決が出て、すぐに建設をスタートするわけにはいかなくなってしまった。「高裁に差し戻しとなれば、少なくともあと3年か4年はかかる。その間だけでもこっちを手伝ってくれ」と江戸から言われ、高橋は首を縦に振るしかなかった。この瞬間から亡くなるまでずっと、高橋はオリエンタルランドに身を捧げることになるのである。
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