小林製薬・紅麹問題に見る「社外取締役」の存在意義
社外取締役は情報を取りに行ったのか
「紅麹」を使用した機能性表示食品(サプリメント)で健康被害を出した小林製薬。摂取した人の肝臓機能が低下するなどし、大きな社会問題に発展している。厚生労働省は、工場内の青カビが培養段階で混入した可能性を指摘するも、まだ原因物質の特定には至っていない。
さまざまな論点が指摘されているが、ここではガバナンスの観点から、社外取締役の役割に焦点を当てたい。
小林製薬が消費者である患者の1人から最初の連絡を受けたのは2024年1月のことだった。さらに15日には、別の患者を診察した医者から小林製薬に連絡が入っている。しかし小林製薬が「紅麹」商品の被害と自主回収を公表したのは実に2カ月余りも経った3月22日のことだった。
これだけでも大問題だが、より問題なのは小林製薬が社外取締役に初めて情報を共有したのも、会見直前の3月20日だった点だ。これは小林製薬社内の風通しの悪さ、社外取締役を単なる“お飾り”“お客さま”扱いしていることを示すだけでなく、社外取締役が機能していないことを示してもいるためだ。
この点、「計7人いる取締役のうち、創業家の小林社長を含む3人は社内出身だ。残る4人は社外取締役で、学者や実業家らで構成される。過半数を社外取締役にしたことについて、同社は経営に関する監視強化の狙いがあったと説明するが、今回の問題では機能しなかった」との指摘もある (『日本経済新聞』2024年4月22日)。また、同様に「社内の人間はどうしてもネガティブな情報を隠蔽したり先送りしたりしがちなので、そうならないためにも高額な報酬で社外取締役を選任しているわけですが、このおよそ2か月間あまり彼ら彼女らは何をやっていたのでしょうか。社外取締役を含めた企業全体のガバナンスに大きな欠陥があったと言わざるを得ません」との意見も紹介されている(『週刊新潮』2024年4月11日)。
会社の不祥事にはパワハラ・セクハラや不正会計など、多種多様なものがあり、それらを軽視するつもりはないが、顧客に甚大な健康被害、それも生死に関わる被害を及ぼすリスクほど大きなものはない。
中でも、小林製薬はさまざまな商品を扱っているが、トイレの芳香剤や衛生雑貨だけでなく、サプリメントやオーラルケア商品など、人の体内に入るものも扱っている。そうした会社にとって、健康被害は最も大きなリスクであることは火を見るより明らかだ。
にもかかわらず、最初の通報を受けてから自主回収公表までに2カ月もの時間がかかっているうえ、機能性表示食品に問題が生じた場合、消費者庁や厚労省に速やかに届け出なければならないにもかかわらず、小林製薬はそうした対応もしていない。この間のリスク拡大を考えれば信じがたい怠慢だが、これは社外取締役としても同様というほかない。
そもそも、社内における情報伝達の目詰まりが起きていたことは間違いないであろう。また社外取締役の立場からすれば「我々も会見の2日前まで知らされなかった。知らなかったことに対しては、何らの対応もなしえない」というだろう。だが、社外取締役の役割を考えれば、こうした態度そのものが怠慢の誹りを免れないのである。
社外取締役は「待っていれば自動的に社内からの情報が上がってくる立場」ではない。ましてや非常時のネガティブ情報ならなおさらだ。経営の根幹にかかわるような情報に関しては、社外取締役が社内から円滑に伝達されるような状況を整備し、運用しなければならない。そうした仕組みの必要性や整備を、小林製薬の取締役会の社外取締役たちは提言ないし実行してきただろうか。今回の「紅麹」問題を見る限り、何もやっていないとみるのが自然だろう。
社外取締役自体が機能不全に陥っているからこそ、社内で最大級のリスクである健康被害の告発を受けても、執行部から知らされるまで社外取締役が何も情報をつかむことができなかったのだ。
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