政治資金制度に“精通”する会計士が説く「収支報告・監査改革」の焦点《前編》
自民党・安倍派の政治資金パーティーにおける裏金作り(多額のパーティー券を売り上げた国会議員に対するキックバックの収支報告書未記載)に端を発した、今回の一連の政治資金改革に関する議論は、ようやくと言うべきか、政治資金規正法改正案の国会審議が始まることになった。
今さら言うまでもなく、議会制民主主義とは、主権者たる国民に選ばれた国会議員が、民意を反映した政策を立案し、国家の舵取りを行うガバナンスの仕組みであり、一方的、他律的な上意下達の体制であってはならない。したがって、その「透明性」は必要不可欠なものである。
政治資金に関する問題は、政治資金パーティー券の公開限度額、企業団体献金、調査研究広報滞在費(旧文書交通費)、新たに提案された確認書と連座制、果てはこれまで黙殺されてきた政策活動費など多岐にわたる。そのため、門外漢には、政治資金の実像を把握するのは不可能と言えるほど、密教化している。
そこで今回、政界のガバナンスにも明るく、上場企業の財務諸表監査ならびに政治資金監査双方の実務を知る公認会計士、三宅博人氏が緊急寄稿。政治資金規正法に基づく収支報告とその監査に関する問題点について、そのリアルな視点を提供する。
1.「政策活動費」は収支報告のブラックホールか?
図らずも今回の議論では、永田町では半ばタブー視され、かつては多くのメディアでも正面きって取り上げることのなかった「政策活動費」にかかる問題点が浮き彫りにされている。
政策活動費とは、党本部より政治家個人に拠出される資金であり、その使途が明らかにされないものである。朝日新聞の集計によると、2021年までの20年間において、主要政党では456億円、そのうち自民党は379億円を占め、同党の議員別には、二階俊博氏へ約50億6000万円、元首相の故・安倍晋三氏へは20億5000万円、そのほとんどが幹事長在任時代に支払われている(2022年11月26日『朝日新聞デジタル』)。自民党型ガバナンスを象徴する幹事長の力の源となっているのではと指摘されている。
したがって、党本部の収支報告書の支出欄には記載されるが、収入側は個人であるため収支報告書に計上されることはない。政治資金規正法12条1項では、政治活動に係るすべての収入について記載しなければならない旨明文化されているが、政策活動費に関する例外規定などは存在せず、政治資金規正法がザル法、過激な論者によっては“ブラックホール”と言われる所以のひとつとなっている。
内閣官房や各省庁において公に予算化され、会計検査院による検査の対象となる、報償費(機密費)とも性格を異にするものである。
一連の議論では、収入面という括りで、パーティー券購入限度額の引き下げや企業団体献金の廃止と同等に論じられているが、既存のルールの是非にかかるものとルール自体が存在しないまま、摩訶不思議な実務がなし崩し的に運用されているものとでは、明確に峻別して検討すべきである。
開示方法については、小項目に分解すれば済むというものではなく、通常の収支報告書のディスクロージャー・ルールに則って開示すべきである。高度な機密性を有し、いかような開示も馴染まない内容があるのであれば、例外規定も併せて明文化すべきであろう。特定の候補者を応援するための資金というのであれば、本来秘匿すべきものではないはずである。
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