小林製薬・紅麹問題に見る「社外取締役」の存在意義
「ミスター社外取締役」は何をしていたのか
小林製薬の社外取締役は、一橋大学の名誉教授で小林製薬の独立委員会委員も務めた伊藤邦雄氏を筆頭に、イー・ウーマン代表取締役の佐々木かをり氏、元日銀の有泉池秋氏、小松製作所で危機管理担当役員を務めた片江善郎氏が並ぶ。会社の規模に比して、著名人をずらり揃えた社外取締役といった印象の顔ぶれだが、「会社の看板としての社外取締役」の色合いがきわめて強い。実際、今回の問題でも役割を果たせなかった以上、“お飾り”と言われても仕方がないだろう。
特に伊藤邦雄氏の責任は重いと言わざるを得ない。伊藤氏は07年6月から小林製薬の独立委員会の委員を務め、13年6月から社外取締役に就任している。07年から数えれば、伊藤氏と小林製薬の関係は実に17年にもわたるものであり、その間、指名委員会にも名を連ねるなど、会社の経営方針に深くコミットしてきた立場だからだ。
さらに、伊藤氏の独立委員・社外取就任の時期は、現社長である小林章浩氏が、それぞれ取締役、社長に就任した時期と軌を一にしている。ここからは憶測に過ぎないが、前社長で現会長の小林一雅氏が、息子である章浩氏を社長に就任させるにあたり、伊藤氏を「お目付け役」あるいは「後見人」として社外取締役に就任させ、伊藤氏と会社との関係を継続したのではないかと考えられる。
外部の目として機能すべき社外取締役の筆頭が、17年にもわたって会社との関係を維持し続けていること自体に問題がある。株主などから独立性が疑わしいと指摘されてしかるべき状況だ。
そのうえ、事実上の「社長の後見人」として社外取締役を続けながら、会社にとって最大のリスクである健康被害が起きた今、伊藤氏はどのような役割を果たそうとしているのか。
あくまで一般論だが、社外取締役の中には、高額の報酬をもらいながら「お客さま扱い」されることを当然のものとし、不祥事が起きて責任を追及されると「こんなにひどい会社だとは知らなかった」などと責任逃れをした挙げ句、その処理も行わずに社外取締役を辞めてしまうような例もある。
さすがに伊藤氏はそのようなことはないと思われるが、これまでに三菱商事、シャープ、セブン&アイ・ホールディングス、曙ブレーキ、東レなど、数々の会社で社外取締役を務め、いくつかの企業では不祥事も経験してきた伊藤氏が、一体なぜ、小林製薬のガバナンスを有効に機能させることが出来なかったのか、疑問は尽きない。長く社内を見てきた経験を踏まえ、伊藤氏には、ぜひとも何らかの見解を示して欲しいものだ。
小林製薬は「製薬」と名の付く企業名ではあるが、販売時に薬剤師が必要な第一類医薬品は扱っておらず、漢方薬のような第二類医薬品、整腸剤などのような第三類医薬品を扱う会社である。そのため、医薬品のリスクについて製薬会社ほどの意識を持っていなかったのではないかと思われるが、消費者にとっては薬であろうとサプリであろうと、健康のために服用するものであることに変わりはない。
さらに言えば、商品のかなりの割合がブランドや工場の買収等によって自社製品になったものであり、小林製薬が独自で開発したものではない。そうした商品を独特のネーミングセンスやコマーシャリズムでうまく売り出してきた印象だが、今回、明らかになったのは隠蔽体質であり、社外取締役の機能不全を含む内部統制の杜撰さだったことになる。
これまた、ガバナンスの中核にも位置する社外取締役の役割が問われる一件であることに間違いはないのである。
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