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エネルギーテック企業エネチェンジ「会計疑義問題」3億円の第三者委員会がシロ判定でも“創業者は追放”への疑問

エネルギー問題の将来を担う企業として期待されたエネチェンジ(東証グロース)の創業者、城口洋平CEO(最高経営責任者、37歳)が7月末、会計疑義問題で辞任に追い込まれた。ガバナンス不在とコンプライアンス軽視が招いた事態とはいえ、“みそぎ”は済ませ、明らかな不正による辞任とは異なるだけに、さまざまな教訓を残したものになった。

監査法人が第三者委員会設置を要求

城口氏は関西の名門、灘中学・高校に進学するが、その足下で阪神・淡路大震災が発生し、東大法学部卒業翌年の2011年には東日本大震災が起きた。2つの震災を通し、城口氏は、日本のエネルギー自給率の低さに問題意識を抱いて、英ケンブリッジ大学へ留学し、電力データ解析を研究した。そして15年にエネチェンジを創業し、20年に東証マザーズ(現・東証グロース)に上場した。今年2月には、政府系の産業革新投資機構が、企業育成ファンドの出資先第1号に選んで40億円の出資を決め、さらなる飛躍が期待された。しかし、まさにその2月に、城口氏に暗雲が垂れ込めた。

エネチェンジは、エネルギー業界への技術サービスを提供するエネルギーテック企業として設立されたが、23年度に、全国の住宅・商業施設等にEV(電気自動車)用充電器を設置する事業を開始した。この際にSPC(特定目的会社)が設立され、エネチェンジがSPCに充電器を卸した時点で売り上げを計上するスキームが組成された。

しかし23年12月期の決算作業を行っていた今年2月、監査人のあずさ監査法人に外部から情報提供があり、エネチェンジの会計に疑義が呈された。内容は、エネチェンジがSPCを実質的に支配しているため、SPCへの充電器販売は内部取引であり、売り上げに計上できないことを示すものだった。あずさ監査法人は調査に着手し、城口氏とSPC出資者のやり取り等を確認するためにデジタルフォレンジック(電磁的記録の解析)の実施を求める事態に発展。しかも、フォレンジックだけでは終わらず、第三者委員会の設置をも要求したのである。

創業者が「これが崩れると会社が崩れる」

あずさ監査法人側の強い要望で設置された第三者委員会は、3カ月間に及ぶ調査を行って6月27日に報告書が公表されたが、報告書で示されたものは、城口氏の言動が不正に当たるか否かの判断は大変難しいということだった。

EV用充電器の設置事業を開始する時、充電器を自社で保有して設置する場合は急速な事業拡大は難しいため、充電器を保有してくれる事業体を立てるスキームを検討した。しかし、エネチェンジと事業体に密接な関係があれば、売り上げに計上できない問題が浮上。エネチェンジはいくつか案を示して早い段階であずさ監査法人にも見解を求め、「計上できない」という指摘を受けている。

その後、城口氏の知人の紹介でSPCに出資してくれる第三者が見つかる。しかし、出資リスクが生じるため、城口氏は第三者に「充電収入の最低保証を行う」「前払いで資金提供を行う」等により、「リスクを回避するスキームに当然するつもりです」とメールで提案している。ただし、これらは提案に過ぎず、内容が確定できないまま時間が過ぎていく。

城口氏は社内のスラック(Slack=チームコミュニケーションツール)で社員に、「もっと死ぬ気でやって下さい(略)こんなに毎日キレたくない(略)これが崩れると会社が崩れるから、やってます」等と、スキームの構築を強く求めた。そして、城口氏がSPC出資者に個人的に貸し付けを行って、将来に出資分を買い取る等を決めるに至り、後にこれが問題となったのである。

城口氏は決定前に、「SPCスキームが会計上問題ないか確認できているのか報告ください」「監査法人に秘密でやるというにはダメなはず」と社員に送信している。しかし最終的には、エネチェンジはあずさ監査法人に対し、城口氏の個人的貸し付け等を説明せずにスキームを実行してしまった。デジタルフォレンジックの実施が決まると、城口氏は「パニック的」にメールの一部を削除したが、その後、削除した一部を復元してもいる。

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