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【オリエンタルランド秘史#9】旧建設省の族議員を相手に政界工作に奔走した高橋政知

一難去ってまた一難、新たな横槍が…

  • 高橋政知 オリエンタルランド第2代社長。1913年生まれ。東京帝国大学法学部卒。61年、オリエンタルランドに専務として入社。浦安漁民の漁業権放棄交渉をまとめ、浦安沖の埋め立てに乗り出すが、費用捻出をめぐって千葉県・友納武人知事と対立する。
  • 川崎千春 オリエンタルランド初代社長、京成電鉄社長。1903年生まれ。旧制水戸高校を経て、東京帝国大学経済学部卒。58年京成電鉄社長、60年オリエンタルランド初代社長。高橋に遊園地用地100万坪の払い下げ確保を命じる。
  • 友納武人 千葉県知事(1963~75年)。1914年生まれ。東京帝国大学法学部卒。37年内務省入省。63年、加納久朗・千葉県知事のもとで副知事、加納の急死を受けて同年知事当選。埋め立て等の土地開発を推進し「開発大明神」と称される。
  • 江戸英雄 三井不動産社長。1903年生まれ。旧制水戸高校を経て、東京帝国大学法学部卒。1955年に三井不動産社長に就任。

頑なな態度を崩さない千葉県知事の友納武人を怒鳴りつけ、怒りに任せて県庁をあとにした高橋政知だったが、帰り道、さすがに後悔した。県営となっている埋め立て工事をオリエンタルランドに委託する形にしてもらえなければ、当面の費用が捻出できない。会社には資金がないのにどうするのだと高橋は自問自答した。

社に戻り社長の川崎千春に報告すると、「それはまずいな」と言う。高橋も「だから一緒に来てくださいと頼んだじゃないですか」と恨み言を洩らした。川崎が掛け合い、なんとか1週間後に友納と会う算段をつけた。千葉県を根城とする京成電鉄のトップでもある川崎の頼みとあっては、知事も無下にはできない。

川崎と高橋が待つ料亭の一室に友納が入ってきた。高橋の顔を見つけると、友納は顔色を変え、きびすを返し部屋から出ていこうとした。高橋は畳に頭をこすりつけ、先日の無礼を詫びた。落ち着きを取り戻した友納は二人の前に腰を下ろした。高橋は東大法学部の同級ではないかと友納に語りかけた。同じ教授の講義を受けていたのではないかと。あらかじめ調べておいたのだ。表面上はとりあえず友納の機嫌は直り、埋め立て工事のオリエンタルランドへの委託話もほどなくまとまった。

ようやく浦安の埋め立て工事はスタートすることになるのだが、以降も順風満帆というわけにはいかなかった。1968年5月、建設省(現国土交通省)が千葉県に浦安の埋め立ての認可を出す際、オリエンタルランドにとっては“寝耳の水”の付帯条件がつけられた。遊園地用地として県と合意していた75万坪の払い下げについて、少なくとも23万坪を削減しなければ、認可できないというものだった。県の決定事項に建設省が横槍を入れてきた背景には政治家同士の権力闘争があった。

早朝、東京ディズニーランドに向かう入場客(12月)

よみうりランドに話を持っていった友納知事

兄・岸信介の孫の安倍晋三に抜かれるまで戦後最長の政権を築いた佐藤栄作首相の時代である。佐藤にとって目の上のたんこぶは自民党ナンバー2の副総裁、川島正次郎の派閥に所属する赤城宗徳。反佐藤の急先鋒だった。赤城は旧制水戸高校第2期生。三井不動産社長・江戸英雄の1年後輩で、京成電鉄社長・川崎千春とは同級である。赤城を支援する水戸高人脈の牙城ともいうべきオリエンタルランドに、佐藤栄作の懐刀ともいわれた当時の建設大臣の保利茂が圧力をかけてきたのだった。なお、“昨日の敵は今日の友”の永田町らしく、その後、赤城は佐藤政権下の最後の改造内閣で農林水産大臣を務めている。

権力闘争のとばっちりを受け23万坪を失いそうになったオリエンタルランドだが、社長の川崎はなんとしても取り戻すように高橋政知に命じた。元々、100万坪を確保しろと言っていた川崎である。それが75万坪になったことさえ、高橋に不満をぶつけていたのだ。一方、千葉県も困っていた。23万坪の分譲が宙に浮けば、予算に組み込んでいた収入を失いかねない。早急に、オリエンタルランドに代わる売却先を見つけなければならなかった。

そこで知事の友納武人が話を持っていったのは、こともあろうか、オリエンタルランドのライバル、よみうりランドだった。高橋に恥をかかされた恨みを忘れていなかったのだ。当時、よみうりランドの社長を務めていたのは読売グループのドン、正力松太郎の娘婿の関根長三郎。同社は船橋市に競馬場とオートレース場(2016年廃止)を持ち、千葉県とは密接な関係があった。関根は懇意にしていた友納にいずれは県内にドーム球場をつくりたいと語っていた。

友納から話を聞いた関根も当初は乗り気だった。ところが、その23万坪は地盤が緩く、ドーム球場をつくるには適していないことが判明した。よみうりランドは計画をサッカー場建設に切り替えたが、最終的に見込みなしと判断し撤退する。一方、オリエンタルランドはその間、高橋が政界工作に奔走。遊園地用地75万坪とは別に、オリエンタルランドには住宅用地40万坪が払い下げられる予定だった。その40万坪が1970年に千葉県から引き渡され、うち22万8000坪を京成電鉄と三井不動産に譲渡。オリエンタルランドには60億円を超える売却益が転がり込んでいた。数年前まで工事費用の捻出に苦しんでいた同社とは見違えるほど、潤沢な資金を手にしていた。それを使い、高橋は建設省の族議員たちにカネをばら撒いた。いじめる側だった保利もすっかりオリエンタルランド贔屓に変わり、全面協力するようになっていた。

23万坪すべての返還はかなわなかったものの、なんとか15万坪を取り戻すことに成功。1970年代半ば、オリエンタルランドは遊園地用地63万8000坪を確保した。

(文中敬称略、#10に続く

シリーズ#1はこちら 社会問題に無関心を装う日本側の…
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