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第8回【坂東眞理子×八田進二#2】坂東眞理子流「大学改革」の奥義

どうして学校法人のガバナンス改革は進まないのか

八田進二 #1から続くところで、坂東さんは昭和女子大学に理事で入られてから今年でまる20年ですね。そこで、大学のガバナンス改革についても、うかがわせてください。実は私、文部科学省の学校法人ガバナンス改革会議に有識者として呼ばれたことがありまして……。

坂東眞理子 よく存じ上げてますよ。先生方が出された改革案に私立大学がものすごく反発して大変だったとか。確か、社会福祉法人と同等のガバナンス機能を持たせるべきだとおっしゃって、理事会に権限が集中し過ぎているから、評議員会を最高監督決議機関にして、理事会や理事が評議員を選任したり解任したりできないようにすべき、といった案でしたよね?

八田 そうです。ある面では、日本大学の問題を受けてのガバナンス改革議論でしたから、理事長による不正を抑止する機能は必須だったはずなのです。そもそも監督される側が監督する人を選任したり解任したりできるなんて、おかしいです。我々は当たり前のことを言っただけのつもりでした。実際に、社会福祉法人ではもう実施されてるわけですから。でも、反発たるや、とにかくもの凄かった。私大連(日本私立大学連盟)から私大協(日本私立大学協会)、教職員組合に至るまでね。

坂東 先生方のご提案どおりにはならなかったですが、多少なりとも前進はしましたでしょ?

八田 まあ1歩くらいは前進したんでしょうかね……我々は3歩進めようとして2歩下がった感じでしょうか。評議員会は諮問機関のままだし、理事会に強い権限が残ったままであることは事実ですが、合併や解散などに限っては諮問機関である評議員会の承認を必要とするというところまでは認めさせましたから。

坂東 形を整えれば、いずれは中身も変わっていくかもしれませんね。

八田 学校法人は大きい大学だと評議員だけで100人以上いるそうです。要は名誉職なんですね。民間企業でもバブルの頃までは取締役は名誉職で、大手銀行なんて100人近くも取締役がいましたからね。ところがその後、それではダメなんだという議論が重ねられて、経営の執行と監督の役割を分離するということが当たり前になったわけです。公益的な組織でも業務執行と監視・監督は分離すべきだと考えたのですが、学校法人は受け入れない。なぜなのでしょうか?

坂東 教育の原点は、立派な教育者が自分の志で次世代の人材を育てるものであり、その志を尊重するという考え方が今も生きているからですかね。学校法人には出資という概念がなく、創設資金は寄付で賄われます。つまり、私財を投げ打った創業者は、株を持つわけではない。あくまでポストを持つだけで、子孫に残せる資産の形にはならないんですね。創業者が亡くなると理事長ポストは創業者の一族権威もろとも世襲されるので、地方のオーナー大学なんかは、オーナーにみんなひれ伏してしまう。

坂東眞理子氏(撮影=矢澤潤)

昭和女子大学が勝ち取った「女子大実就職率トップ」

八田 坂東先生は昭和女子大学には最初、教授、理事で入られて理事長、学長、そして現在は総長をお務めですが、それぞれどういった役割を担っているのでしょうか。

坂東 学長は大学と大学院の責任者、理事長は学校法人経営の責任者です。教育現場の責任者の呼称は、大学・大学院の責任者は学長ですが、こども園は園長先生、小学校、中学校、高校は校長先生なんですね。そこで、総長は教育現場の責任者に全体を通してアドバイスできるような立場という位置づけで新設し、理事長と兼務していました。自分で作った内規に従って、昨年度限りで理事長職からは退きました。

八田 そもそも昭和女子大学にはどういったご縁で来られたのですか。

坂東 昭和女子大学は詩人の人見圓吉さん(筆名は人見東明)が創設、2代目の人見楠郎さんが2000年に84歳で亡くなるまで26年間、学長と理事長を兼務する典型的なオーナー経営の学校法人でした。教育方針は“良妻賢母”の育成だったのですが、長女で3代目の人見楷子さんは、「これからは仕事をする女性を育成したい」というお考えだったんですね。そこで私にお声がかかった次第です。

八田 2003年というと、女子大、特に短期大学は厳しい経営状況だったのではありませんか。私は青山学院大学に2001年に着任しましたが、短大はすでにかなり厳しい状況に追い込まれていましたが。

坂東 そうですね。学校法人全体を支えていた短大の経営が苦しくなり、学校関係者のみなさんが強い危機感をお持ちでした。だから、私のような外の人間を受け入れてくださったのだと理解しています。

八田 今、昭和女子大学はどのくらいの規模なのですか。

坂東 学生・生徒数で言いますと、大学と大学院で6500人、それに附属の保育園、幼稚園、小、中、高校で2500人いますので、全体で9000人です。

八田 保育園から大学まですべてが、東京・世田谷のキャンパス内にあるのですか。

坂東 そうです。だから、とても効率的ですよ。中国国家重点大学である上海交通大学とも交流がありますし、1988年にはアメリカ・ボストンにキャンパスを取得しているんです。大学の英語コミュニケーション学科、国際学科、ビジネスデザイン学科の学生たちがそこで半年間合宿をして、アメリカ人の先生に英語と、会計学やファイナンスの基礎も教えていただいています。

八田 先生が着任された頃はもっと小規模だったのでしょう?

坂東 当時は定員割れを起こしていましたから、短大、大学、大学院の合計で今より1700人ほど少ない4800人、そのうちの4分の1に当たる1200人が短大でした。短大は徐々に縮小し、2014年に完全に廃止しました。

八田 この少子化の時代に20年間で学生数が1.3倍に増えたわけですね。具体的にはどんな施策をなされたのですか。

坂東 いろいろ試みました。上手くいかなかったこともたくさんありますが、女子大で初めて「ビジネスデザイン学科」を新設したことは成功でした。それと、「女子大トップ」と言われるにはどうしたら良いかと考え、実就職率で最上位を目指しました。これは目下のところ、12年連続トップです。

八田 それはすごい。詳しく教えてくださいませんか。

坂東 学生部の就職課を独立させて「キャリア支援センター」を設置し、学生の就職を全面的にサポートする体制を整えました。最初はなかなか成果が上がりませんでしたが、徐々に実績が積み上がっていきました。

八田 学内で抵抗はなかったんですか。

坂東 「女子が働く」と言ったって、どうせ子どもが生まれるまでの2~3年のことなんだから、何もそんな頑張らなくても……そんなことを言う人はいましたね。教員の中にも、企業に足を運んで頭下げるなんて嫌だという人もいました。だから、「そんなことは先生方にはさせません、職員でやりますから」と言って説得しました。

八田 キャリアコンサルタントのプロを雇用するというようなことはされなかったのですか?

坂東 常勤の職員としてではなく、契約で助言を得るということは随分しましたね。就職に有利な学部を高校生対象のオープンキャンパスでアピールするということもしました。たとえば、会計とかファイナンスなどの学部は就職に有利なんですが、高校3年生の女子が会計に興味なんて持つのか、といった声もありました。でも、蓋を開けてみたら、出産を機に退職したというお母さんが娘さんに「会計の勉強をしておくと、将来に役立つ」なんて助言をしていたり、という風景も見られましたね。

八田 私の専門領域が会計ですので、会計の重要性を理解していただけていることは大変うれしく思っていますし、そうした学部を新設された先見性は尊敬いたします。

八田進二・青山学院大学名誉教授
社会は大学教育に“もっと厳しい要求”をすべき …
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