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第12回【油布志行×八田進二#1】金融庁NISA導入局長が語る「“稼ぐ力”を高めるガバナンス」

八田進二・青山学院大学名誉教授が各界の注目人物と「ガバナンス」をテーマに縦横無尽に語り合う大型対談企画。シリーズ12回目のゲストは金融庁総合政策局長の油布志行(もとゆき)氏。1989年、旧大蔵省(財務省)入省の油布氏は2004年から4年間、OECD(経済協力開発機構)に出向。帰国後、体得したガバナンスの知見を活かしてスチュワードシップ・コード、コーポレートガバナンス・コード策定に事務方として尽力した。最近では「資産運用立国」の確立に向け、資産運用会社の運用力を上げるプランの策定に関与。NISA導入など、個人投資家の資金を日本企業に振り向ける仕掛けづくりを通じ、日本企業の稼ぐ力の底上げに携わっている。そんな油布氏が考えるガバナンス論とは――。

ガバナンス後進国から最先端のOECDへ

八田進二 油布さんは1989(平成元)年4月の旧大蔵省入省ですね。まさにバブル最盛期から日本が真っ逆さまに落ちていく過程を、大蔵省、財務省そして金融庁に所属されて経験されました。

油布志行 そうです。入省した年の暮れ、大納会まで日経平均はウナギ登りでした。ご存知の通り、12月29日の大納会の日、過去最高の3万8915円を付けるわけですが、年が明けて大発会の日の終値は前日比200円安。例年、大発会の日はご祝儀的に株価が上がっていたのが、この年は下がった。私自身、「あれ?」とは思ったものの、明日か明後日にはまた戻るだろうと楽観視していました。実際、この時のお正月の新聞には「日経平均10万円」を達成するのはいつかといったような特集が組まれていたくらいです。まさかそこから35年近く、一度も3万8915円に届かない事態に陥るなどということは想像できませんでしたね。

八田 当時は多少株価が下がっても、1~2年で日経平均10万円を達成すると多くの人が本気で考えていましたよね。

油布 バブルによる弊害は非常に深刻なものだったので、是正する必要があったことは間違いないのですが、日本経済を長期にわたって停滞させてしまったのは、政策サイドや行政の力不足だったと私自身、忸怩たる思いがあります。個人的な気持ちとしては、現役でいる間に公務員1年生だった時の日経平均3万8915円に回復する日が来てくれることを願っているのですが、さてどうでしょうね。

八田 いや、最近の市場を見ていると、ギリギリ間に合うかもしれませんよ(笑)。ところで、油布さんと言えば、「Wコード」とも言われる「スチュワードシップ・コード」と「コーポレートガバナンス・コード」策定時の担当者であったことです。2014年のスチュワードシップ・コード、そして2015年のコーポレートガバナンス・コードの策定のために組成された「コーポレートガバナンス・コードの策定に関する有識者会議」の事務局を主導されました。ハードロー一辺倒だった日本に、ソフトローとしてのコードを導入した立役者です。

油布 これは本当に巡り合わせというか強運だったというか……。こんな仕事はなかなか当たることはないですから、本当にありがたい経験だと思っています。

油布志行・金融庁総合政策局長(撮影=矢澤潤)

八田 コードの知見を培われたのは、やはり2004年から2008年までOECD(経済協力開発機構)へ出向されたことが大きいですか。

油布 そうです。私は財務省の大臣官房に所属していた時期にOECDに出向しているのですが、何のために派遣されたかというと、「コーポレートガバナンスを勉強して来い」ということだったんです。コーポレートガバナンスの世界ではOECDがグローバルスタンダードですからね。実際、「OECDコーポレート・ガバナンス原則」を所管する部署に配属になりましたが、私自身はガバナンスについて、ほとんど知見がありませんでした。ただ、OECDは国際機関ですから、いろいろな国の方とカンファレンスを主催したり、出張に赴いたりと。

八田 OECDではいかがでしたか?

油布 当時の感覚では、日本はとてつもないコーポレートガバナンス後進国でした。OECDチームの一員としていろんな国に出張に行くと、はじめに驚かれたのが、私が日本人であること。チームの一人ですから同行するのは当然なのですが、「どうしてコーポレートガバナンスで、よりによって日本人が来るんだ?」という反応なんですね。

もちろん、相手も大人ですから、公式の場では面と向かって言わないのですが、懇親の席なんかでは冗談めかしてはいたものの、多少皮肉られることはありましたね。コーポレートガバナンス先進国の人から見たら、日本のコーポレートガバナンスはノートリアス(悪名高い)だったわけです。事実、日本企業はガバナンスを改善しようという意思すら感じられないという印象を持たれていたようです。

新発想「プリンシプル(原理・原則)ベース」の原点

八田 そのような状況で、まさかコーポレートガバナンス・コードを日本で、それも自分自身で策定に携わるなんて……。

油布 夢にも思いませんでしたね(笑)。日本の2004~08年頃というと、1990年代末期の金融危機を何とか乗り越えたとは言っても、まだ一般事業会社が苦しんでいた時期。会計不祥事が発覚して、日本全体が閉塞感に包まれてもいましたし。

八田 2005年にはカネボウの巨額粉飾事件が起こり、06年には会社と共謀したとして、中央青山監査法人が金融庁の行政処分を受けました。その後、みすず監査法人に商号変更して再興を図ったのですが、翌07年には解散となりました。当時はマーケットが混乱し、日本国内でもガバナンスの必要性がようやく認識され始めた時期でもありますね。

八田進二教授

油布 ある時、OECDの同僚のオーストラリア人に「日本でガバナンスの改善が進まないのはなぜだと思う?」と聞いてみたんです。日本の事情にかなり詳しい彼が言ったのが、「日本はハードローに頼り過ぎ」ということと、「(役所が)企業のオーガニゼーショナル・イシュー(機関設計)ばっかりやっているから理解が得られない」という2点だったのです。

法律をつくる作業は時間も労力もかかって大変です。安定した社会ならともかく、目まぐるしく社会が変わっている中で法律だけで対応しようとしたら、極端な話、法律が出来上がる頃には情勢が変わっている可能性すらあります。

また、オーガニゼーショナル・イシューも言われてみると、日本の場合、どうしても組織論から入ろうとする。2002年の商法改正では、ガバナンス強化のための仕組みとして、監査役設置会社に加えて指名委員会等設置会社の導入を図ってきました。また、監査役に関しても、常勤監査役や社外監査役の義務化、そして監査役の中で社外出身者を過半数にしろとか、いろいろな改正もなされてきました。そういうことも含め、特に上場企業にはガバナンスに対する疲労感があったのかなと思います。

八田 財界の反発も強かったですよね。

油布 もちろん、経団連の所属企業をはじめ、実業界の中でも「日本のガバナンスはこれではいけない」と感じていた方はたくさんいらっしゃったと思います。けれども、団体や業界として主張する時には、ガバナンスを法律で一律義務付けするのはおかしい、となる。その主張もある意味、正しいと思いました。ですから、もし帰国してコーポレートガバナンスに関わる機会があれば、ハードローではないプリンシプル(原理・原則)ベースで、機関設計も含めて文書化ができればいいというふうに考えていました。

八田 確かに日本は制定法の国ですから、既存のハードローに依拠したくなる。でも、世の中がどんどん変化している時に、法律をイチから制定していたのでは臨機応変な対応ができない。だから、プリンシプルベースが良いわけです。倫理観などをしっかり織り込んだ原則だけを決めて、細目については、ある程度の自由度を持たせたほうが機動的に対処できます。コードの精神は、まさにそれですからね。

特に日本では多民族国家のアメリカなどと違って、原理・原則の概念は共有しやすいものでしょう。だから私は、プリンシプルベースという方法は日本人には馴染むものだと思っています。とはいえ、当時はまったく新しいアプローチでした。コーポレートガバナンス・コードを実現できたポイントはやはり、2013年6月に閣議決定された第2次安倍内閣のアベノミクス第3の矢である「日本再興戦略」(成長戦略)に盛り込めたことではありませんか。

油布 おっしゃる通りです。政権交代直後の推進力がなければ、難しかったかもしれませんね。そのタイミングだったから出来たのだと思います。それに自民党の中にも応援してくださる議員の方々が結構いらっしゃいましたし。とりわけ塩崎恭久さん(前衆議院議員、元厚生労働大臣)は、かなり強力にバックアップしてくださいましたね。

改訂のたびに「ルールベース化」していないか? …
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