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第10回【磯山友幸×八田進二#2】トップ万能主義が「ガバナンス」を蝕む

経済ジャーナリストの磯山友幸氏と八田進二・青山学院大学名誉教授による対談の後編のテーマは、日本企業のガバナンス強化の実効性と学校法人のガバナンス問題。とりわけ、大学に代表される学校法人運営の在り方について、千葉商科大学教授も務める磯山氏は警鐘を鳴らす。

ガバナンス「仏作って魂入れず」の企業も

八田進二 (#1から続く)ガバナンスというと、どうしても仕組みについての議論が中心になります。そこで出てくるのが、日本型の監査役制度は国際標準ではないという指摘です。そして、指名委員会等設置会社で執行と監督を分離させる流れが出てくるわけですが、上場企業4000社弱のうち、指名委員会等設置会社に移行しているのは100社にも届かない。上場企業の機関設計をどのように見ていますか。

磯山友幸 指名委員会等設置会社にしたくないというのは、やはり、人事権を握っていないと自分が会社をコントロールできないと思っている経営者が圧倒的に多いからでしょう。本当はそんなことはなくて、きちんとガバナンスの仕組みさえ出来上がっていれば、自分の後任社長が誰になるかとは関係なしに経営者としての自分がきちんと評価されるはずです。

八田 一方で、日本企業の場合、形だけのガバナンス議論で満足してしまって、そこに魂が入っていないのではないかという懸念があります。結局、上場廃止になる東芝が指名委員会等設置会社であったことは有名な話ですね。

磯山 おっしゃる通りです。やはり、魂を入れることを覚悟した会社でないと制度は使いこなせません。特に日本みたいに指名委員会等設置会社以外にも、従来の監査役会設置会社、折衷型の監査等委員会設置会社と、何でも選べるみたいな制度があると、結局は緩いほうへと行ってしまう。だから、ガバナンスの制度議論は難しくて、制度をどのように使いこなすかは、その会社の姿勢によるところが一番大きいと思いますね。

2003年に当時の委員会等設置会社に移行した東芝のケースはアコギで、実力会長が外部の素人を委員にして、自分が指名委員長に就いた。そして、現役の社長が後継者を指名する慣例を破って、自分が任命権を握ってしまったのです。これが東芝のガバナンスがおかしくなった一番の原因でしょうね。

八田 企業・組織のガバナンスを監視するという意味では、メディアの果たす役割が大きいと思います。ただ、実態に踏み込んでいない報道も多いですね。

磯山 これまた東芝の話になりますが、東芝っておそらく、某自動車会社に次いで2番目か3番目に広告出稿量が多かった会社なんですよね。そんな大口スポンサーを真正面から批判するような記事など書けないという雰囲気があったのかもしれません。だからなのか、どこかの新聞は最後の最後まで「不適切会計」と書き続けて、粉飾という言葉も、不正会計という言葉も、ついぞ使わず仕舞いでした(苦笑)。それこそ、粉飾に決まっているのに。

八田 「不適切会計」をどうやって英語に訳すのかという話も出ましたね(笑)。

磯山 やはり、メディアの経営が安定していないと、批判もままならなくなってしまいます。ますます厳しい経営環境になっているのは間違いありません。

磯山友幸氏(撮影=矢澤潤)

八田 株主による経営監視という意味では、今ではアクティビスト(物言う株主)によって会社の屋台骨が揺さぶられる時代です。ひと昔前までは国を挙げて排除しようという動きがありましたが、今では、まともな株主提案を行うアクティビストも増えています。この動向をどう評価されていますか。

磯山 これは2014年制定の日本版スチュワードシップ・コードの効果ですよね。真っ当な趣旨の株主提案が出たら、機関投資家も賛成せざるを得なくなったのが時代流れです。提案の出し手がアクティビストであろうが、年金基金であろうが関係なくて、その中身が正論かどうかということで評価しなくてはならない。逆に、会社側の提案だからと、無批判にマルを付けることはできなくなった。その効果は非常に大きいですよね。

八田 そういった株主の提案に立ち向かうには、いわゆるプロの経営者が必要になりますよね。社長が好き嫌いで後任を選ぶようでは、およそ太刀打ちできないでしょう。

磯山 そうですね。そういう意味では、次の世代、次の社長の選定システムみたいなものを、どうやって作るか。これが日本企業最大の課題になっていていますよね。問題は選考システムです。指名委員会等設置会社に移行せずに、選考組織みたいなものを別途設けている会社も増えてきています。しかし、最終的には指名委員会等設置会社に移行して、外部の人が次の社長を選ぶということになるのではないですか。

八田進二教授

八田 人は誰でも、自分を指名して社長にしてくれた先輩に対して足向けられないものです。しかも、前社長は会長として、前会長は相談役……というふうに会社に残り続けます。だから、現役の社長に自由度がない。先達の負の遺産や不採算部門を切り捨てることもできない。こういう問題を払拭することができる、そのひとつの手段が指名委員会であり、後継者育成のサクセッションプランなのでしょうね。

磯山 日本企業の最大のウィークポイントは、プロの経営者がきちんと経営していないということです。ただし、プロの経営者を登用するにはガバナンスが必要になります。その人が横暴になってオールマイティーになったら困るので、ガバナンスを効かせるというわけです。

だから、プロの経営者を入れる決断をした瞬間に、ガバナンスを猛烈に強化するという方向に行くはず。今はちょうどそういう過渡期なんだと思いますね。実際、勝負していかないと会社は生き残れないというのが、だんだん日本企業の共通認識になっている。そうである以上、外部人材が必要となる一方、その人を制御する意味でガバナンスが必要になります。これが企業経営の両輪ではないでしょうか。

乱脈のバブル期と重なる「学校法人」ガバナンス …
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