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第11回【久保利英明×八田進二#2】社外取締役は“異論”を言う役割

八田進二・青山学院大学名誉教授が各界の注目人物と「ガバナンス」をテーマに縦横無尽に語り合う大型対談企画。シリーズ第11回目のゲストは、かの久保利英明弁護士。#2では、これまで務めてきた社外取締役の経験から、その神髄を語る。“お飾り”ではない緊張感に満ちた社外取締役のあるべき姿とは――。

野村HD社外取締役時代に断ち切った「香典」の因習

八田進二 #1から続く先生は2001年に野村ホールディングス(HD)の社外取締役に就任されて以来、多くの企業での社外取締役をお務めになっています。社外取締役の基本的な任務や使命をどう考えておられますか。

久保利英明 基本的には、常に経営陣に“異論”を唱えることでしょう。「その経営判断でいいのか?」「環境認識を間違えていないか?」と、自分がおかしいと思うことを取締役会などで臆せず言い続けるというのが、社外取締役の役割だと思っています。

八田 内部の人間では言えないようなことを発言された時、社長や社内の役員たちはどういう反応を示すものですか。

久保利 野村HDでの話ですが、当時、顧客先など、大手企業の財務担当役員は親族が亡くなった時に、証券会社から多額の香典をもらっているのではという噂話がありました。あの財務担当は父親の葬式で香典袋が立つくらいの金額を包まれたようだ……なんて話もあったほどです。ただ、いろいろ確認しても客観的な証拠は見つからない。しかし、そういう話は業界では通説として流布していました。

当時は野村証券を含む証券業界が不祥事に見舞われていた時期で、そんな中、証券会社が財務担当役員の親族の葬儀で香典を渡すこと自体、曰く言い難い関係があるのかと世間から思われる。そこで私は、野村HDの取締役会で「香典をやめましょう」と発言したのです。でも、社内の役員は「1万円だったらいいではないか。香典を持たずにお悔やみには行けない」と言う。私は「葬式に行くな」と言っているわけじゃない。だから、「香典の代わりに、斎場の掃除や葬儀の受け付けをやらせてくださいと言えばいい。断る人はいないはずだから、正面切って香典なしでやれ」と。そして、「未来永劫とまでは言わないけど、少なくとも世の中をお騒がせしているこの時期に、『香典を持たないと、人の葬式に行けない』なんていうことがあれば、社外でこの顛末を話す」と突っ撥ねました。結局、半年くらいは“香典なし”でやりましたね。

久保利英明弁護士

八田 改革というのは前例踏襲を断ち切らないとできません。そのためには外部がおかしいと声を上げることが重要です。外部の人はいわば“社会の代表”ですから、そういう声に耳を傾けるという姿勢が組織にないと、本当の意味で生まれ変ることはできないでしょうね。

久保利 悪しき前例踏襲をやめるのは大変です。さらにどこの企業もやっていることを「ウチはやめよう」とは言い出せない。それは性弱な人間の本性なので、理解はできる。けれども、不祥事が発覚した時のダメージを考えたら、果たして今のままでいいのかと考えるのが経営者のあるべき姿ではないか。それを考えずに、長い物には巻かれる姿勢は真っ当な経営者とは言えません。そこに気が付けば、みんな変わります。これが「ガバナンス問題」なのです。そう大きな声で言いたいですね。

「今の社長が次の社長を選ぶ」は当たり前ではない

八田 それでは、現在、社外取締役が抱える課題、ズバリ、これは何でしょうか。

久保利 社長の選任プロセスでしょうね。多くの日本企業では、次期社長は現役の社長が選ぶものと思っているようですが、そうではないのだということです。次期社長の候補は、今の社長が一番よく分かっていると言われますが、これも“神話”です。こういう発想があるから、次の社長を誰にするのか、社内から出すのか、社外から招聘するのか、本当に誰が適任かという根本的な議論そのものを避けているように思えます。

八田 自分が社長になったことの証として、一番にやるべきことは「内部からの後継者指名」だと思っている方は、実は大変多い。指名委員会等設置会社が不人気の理由はそこにあると思います。なぜ、社長である自分の思い通りにできないのかと。日本では社長は次の社長を選んで自分は会長になる、会長を終えたら相談役、相談役の次は顧問、その次は特別顧問……と続くわけです。一方、アメリカではCEO(最高経営責任者)を辞したら一切会社と関わらないのが一般的ですよね。日本の経営者が長く居座るのは、社長時代の報酬が低いからだとも言われますが、この問題はいかがですか。

八田進二教授

久保利 論外です。報酬の面で問題があるのなら、ストックオプションでもいいので、きっちり渡してさっと辞めてもらうのがあるべき姿でしょう。一人が長く居座るのは反対です。長ければ長いほど、忖度が働き会社をダメにするものなんです。オリンパスのケースを見ても一目瞭然。“中興の祖”を守るために粉飾決算をしていたわけですから。

そういう意味で言うと、過半数を社外取締役で構成する指名委員会を設置する指名委員会等設置会社という概念は間違っていないと思います。しかし、日本企業の大半が指名委員会等設置会社への移行を拒否している。これは、先ほど八田先生がおっしゃったように、現社長が次期社長を選びたいがため、というのが実相なんでしょうね。

八田 社外取締役の構成という側面では、ダイバーシティ(多様性)が盛んに言われています。ダイバーシティとは性差のみならず、国籍や年齢も含まれるはずですが、日本ではとかく女性にスポットライトが当たります。女性取締役がいることの効用、また女性枠を増やすという議論はどう評価していますか。

久保利 男よりも女性の方が頼りになりますよ。いざという時に不退転の覚悟で異議を唱えて頑張るのは、圧倒的に女性です。男なんてすぐに忖度して、寝返ったり引いたりするから(笑)。そういう点では女性が一定程度いることは良いことです。一方で、ダイバーシティと言った時に、海外の人で日本語が堪能な人材もいるのに、活用されているかというと、そうでもない。もっと外国人枠も増やすべきだと思いますね。

八田 日本語は独特の難しさがあるから、外国人は敬遠されるのでしょうか。

久保利 そういった側面もあるかもしれませんが、例えばアメリカ人弁護士で日本語が堪能な人はたくさんいます。これからは、そういった人を活用していくという企業があってもいいでしょう。

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