第9回【冨山和彦×八田進二#1】企業の新陳代謝を拒んだ日本の「失われた30年」
アメリカよりタチが悪い日本型不祥事
冨山 当時思ったのは、日本の不祥事はアメリカの不祥事ほど分かり易くないということでしたね。アメリカは経営トップが強い。だから、不祥事を主導した犯人を特定しやすい。でもね、日本の場合はそういう特定の人物がいないからこそ、アメリカよりももっとヒドイことになるんです。特に終身雇用・年功序列型かつサラリーマン経営者の会社でそれはより顕著になる。これはもはや仕組みの問題です。
病巣を早めに詳らかにすることが、本来のガバナンスでしょ? でも、典型的な日本のサラリーマン経営の会社はそんな自浄作用を寄ってたかって潰しにかかる。それってまさにカネボウのケースそのものですから、特殊でも何でもない。どこの企業にも起こり得ることなんです。

八田 当時、よく「Too big to fail」って言われて、巨大企業は潰すと影響が大きすぎるから潰せないっていうのが延命の言い訳になっていましたね。けれど、冨山さんは、そうした企業に対してもバッサリ一刀両断にしてませんでしたか。
冨山 巨大企業といえども、潰して全く大丈夫なんですよ。しかし、「潰せないから」と言ってギリギリまで頑張ってしまう。でも結局、ダメなものはダメなんです。ギリギリまで頑張ったせいで傷口が広がり、再生ができなくなって、いきなり破産しか道がなくなる。もっと手前の段階でオーガナイズしたプロセスを組めば再生できるんです。
八田 その点、アメリカはさっさと白旗を上げて連邦破産法11条の適用を受けますよね。例えば、アメリカの航空会社は過去に少なくとも1回か2回かは潰れているでしょう。早く白旗を上げて債務免除を受け、債務者主導の企業再建を果たす。アメリカの場合、法制度が整っているということもありますが、日本は自分たちの責任になるのを嫌がって規制当局が潰すのを嫌がる。金融機関もそうですよね。だから手遅れになるのですが、その意味では当局も銀行も共犯ではないでしょうか。
冨山 全くおっしゃる通り。社会全体が新陳代謝を前提としない仕組みになっている印象ですね。自由競争である以上、企業には否応なく新陳代謝が起こる。それが本来の姿なんですから、社会全体として企業の新陳代謝を前提とした仕組みを整備すべきだと思いますよ。新陳代謝が起こる前提のアメリカは産業が進化するけれど、新陳代謝に対する準備を全くしない日本はいきなり船が沈み、産業も進化しないだろう。そう思ってました。実際、平成の30年を通じて、日本経済は進化しなかったですよね。
八田進二教授の「冨山和彦氏との対談を終えて」
冨山和彦氏の名前が広く知れ渡ることとなったのは、2003年に立ち上がった産業再生機構の代表取締役として、カネボウ等、過大な債務を負っている事業者の再生支援に辣腕をふるい、官製ファンドの支援機関として大きな実績を残したことによるものであろう。
その後、自ら、経営共創基盤を新設し、本質的に付加価値のある事業への投資や経営を行うということで、多くの不採算事業の再生に成果を出してきているのである。つまり、同氏の真骨頂は、持続可能な組織の構築と適格性を備えた経営陣の選任こそ、健全なガバナンスの原点であるということを、自身の経営の現場で体現してきていることである。
冨山氏と初めて会ったのは、産業再生機構の斉藤惇社長らと一緒に、会計制度監視機構で、会計および監査制度の課題等について議論をしていた時である。同氏の発言は、常に明快で、説得力のある内容になっていることから、会議の場で学ぶべきことは非常に多い。ただし、とても早口で話されることから、一時たりとも聞き逃さないようにするには、聞く側においてもかなりの忍耐が求められるのでる。
同氏は、大学で法律を学んだあと、米スタフォード大ビジネススクールで経営を学ばれているが、その際、会計学の基礎ともいえる簿記会計の基本を習得することが、経営にとっていかに重要かを再認識されたとの逸話は有名である。
そうした背景もあって、わが国の大学改革の場面でも、ビジネス系の学部では、経済や経営の高等な理論を学ぶよりも、簿記会計を必須にすることの方が、よほど、人材育成には適っていると喝破されていることには快哉を送りたい思いである。
2022年より、宮内義彦氏の後任として、日本取締役協会の会長に就任されており、日本企業のガバナンス向上に向けた旗振り役として、その活躍が大いに期待されるのである。今回の対談でも、多くの点で歯に衣を着せない冨山節を伺うことができたものと思っている。

【ガバナンス熱血対談 第9回】冨山和彦×八田進二シリーズ記事
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