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第9回【冨山和彦×八田進二#2】「構造不況業種」でも立て直すことはできる!

人口減少で見えた「地方バス会社」再生の活路

八田進二 第9回#1から続く5年間限定の組織だった産業再生機構は支援がスムーズに進んで1年前倒しで解散、その後、経営共創基盤を立ち上げられました。その後にお会いした時は、バス会社など、地方の公共交通機関の再生を手掛けられていたように記憶しています。

冨山和彦 再生機構時代に3件ほどやりまして、その実績を買っていただいて話が来るようになったんです。

八田 公共交通機関の再生というのは、民間企業であっても、ごく普通の会社の再生とはだいぶ違うのではありませんか。

冨山 公共交通機関って、地域社会のインフラなので、経済合理性だけで割り切った経営をすることが許されないわけです。だから、人口が急激に減少しているエリアで営業するバス会社などは、もう完全に構造不況に陥っている。ただ、どうにもならなさそうに見えるんですが、これが意外に何とかなるんですよ。

八田 そうなんですか。

冨山 そもそも、かなりひどい経営で、経営者に能力もやる気もない会社が少なくない。人間に例えるなら、むちゃくちゃ不摂生しているわけです。だから、生活態度を改め、人間ドックに行って悪いところを炙り出して、そこをちゃんと治療し、毎日、血圧や体重を測るなどすれば、自ずと健康になります。要は、poorly managedなんですよ。

八田 当たり前のことを当たり前にやっただけでだいぶ改善すると?

冨山 そうです。どうしてそうなるかというと、バス会社のほとんどはオーナー企業なんですね。それも3代目とか4代目とかです。「売り家と唐様で書く三代目」なんて言いますが、なりたくて社長になったわけじゃなくなりゆきで経営している人もいるわけです。自分の親の代まではどんぶり勘定の経営でもどうにかなっていたわけですよ。でも、自分の代になったらどんどん人口が減っていって乗客も減る、乗客が減るから路線を減らして補助金をもらうくらいしかやらない。要は「経営」をやっていないんです。

八田 なるほど。

冨山 ちゃんと儲かっているところと儲かっていないところを分ける化・見える化して、経営資源を儲かっているところに集中し、儲かっていないところはやめる。バスにお客さんが乗ってないのなら、何で乗っていないのかを真面目に考える。当然、今の運行ルート、ダイヤで良いのかも徹底的に見直す。そんな当たり前のことを全くやってないわけです。

八田 全てを人口減少のせいにしてはいけないと。

冨山 そうです。例えば、こんなことがありました。路線図を広げて、路線一つひとつのバス停の位置と、その周辺の集落の分布状況をチェックしていた時に「何でこんな外れたところにバス停があるんだ?」っていうケースがあったんですよ。で、古くからいる社員に聞いてみたら、国会議員の誰それ先生の実家に高齢のお母さんが1人で住んでいるから、家の目の前にバス停を作ってくれと言われて設置したって。しかも、その先生自身がもうとっくの昔に政界を引退している。そのお母さんとなると、一体いくつなんだと聞いたら、もう20年くらい前に亡くなっていると言うわけですよ。じゃ、もうバス停は廃止していいよねと。

八田 ありそうな話ですね(笑)

冨山 それとね、意外かもしれませんが、人口自体が減っても高齢化が進むと、お客さんは戻って来るんですよ。

八田 確かに、高齢者の方たちは運転免許の返上もされますからね。

冨山 そうです。だから、ちゃんと人がいるところにバス停を作って効率的に乗車してもらう。バスのロケーションシステムも進化していまして、「ダイナミックルーティング」っていうネットワークシステムを使って、路線バスをオンデマンドで走らせる取り組みも始めています。既存バス路線のバス停とは別にバーチャルのバス停を作って、利用希望者がスマートフォンの専用アプリで出発地、目的地、人数を指定して乗車予約するものです。他の利用希望者や道路の混雑状況などから、AI(人工知能)が最適な運行ルートやダイヤを決めます。

冨山和彦氏(撮影=矢澤潤)
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