東証プライム企業で「反社交際疑惑」三栄建築設計の前代未聞

元社長が「指定暴力団幹部に小切手」の疑惑
前代未聞の事態である。さる2023年6月20日、東証プライム上場の戸建て住宅販売、三栄建築設計に東京都公安委員会から、都の「暴力団排除条例」に基づいて“勧告”が出されたのだ。同条例では勧告に従わなかった場合には実名が公表されることになっているが、同日にマスコミ各社が「三栄建築設計」の社名を入れて報道したため、東証プライム上場企業の“反社会的勢力との交際疑惑”が明らかとなった。
報道や勧告を受けて三栄建築設計側が行っている説明を総合すると、同社の元社長が2021年3月、子会社発注の建物解体工事を指定暴力団の住吉会系の男性幹部が指定した企業に受注させ、工事代金として交付した189万円の小切手が最終的に男性幹部に渡ったとされる。
マスコミが伝える“捜査関係者”の話としては、元社長本人は否定しているものの、両者は以前から面識があり、男性幹部が工事の過程で入り込んでいたという。また、そもそも今回の事態が明らかになるきっかけは、男性幹部が建築会社の元社員を「ぶっ殺して埋めちまうぞ」などと脅迫していたことだった。まるで令和から一気に昭和までタイムスリップしたかのような前時代的な話で、東証プライム上場企業が、そんな古典的な“民暴事件”に少なくとも関与していたという疑惑の目が向けられるのは、新聞各紙の報道の通り、「聞いたことがない」事案なのである。
三栄建築設計の動きに戻ろう。元社長の疑惑報道を受け、会社側は6月20日以降、一連のリリースを出している。まず勧告が下った6月20日には、東京都暴排条例第27条の規定による勧告があったことを認め、「規定に違反する行為が行われることを防止するために必要な措置」を実行するとして、代表取締役と取締役副社長の辞任を発表。元社長との人的関係を考慮してのことだ。さらに22日には第三者委員会の設置を、26日には取締役会の直下に「経営刷新会議」を設置して組織変更すること、26日には「遮断モニタリング委員会」なる組織を設け、元社長らとの接触を完全に遮断し、全役職員に反社勢力と関係を持たない誓約書を書かせるといったことが報告されている。
勧告があった翌6月21日の三栄建築設計の株価は、前日終値1542円が一時、1292円にまで下落、同日終値は1437円と年初来安値を更新。その後も株価の下げは止まらず、6月27日は終値で1350円まで下げ、以降は若干持ち直してはいるものの、7月5日終値は1426円に沈んだままだ。株価にとどまらず、本業の戸建て住宅の顧客や関係先、取引先金融機関など、さまざまなステークホルダーの間に広がった前代未聞の東証プライム上場企業の反社交際疑惑――。三栄建築設計の信頼回復は元より、このまま上場を維持できるのかも含めて注目が集まるが、まずは、法的・制度的な建て付けを整理しておこう。
「平成19年指針」と都道府県「暴排条例」のインパクト
今や詳しい中身までを把握しているかはともかく、暴力団をはじめとした反社会的勢力との接触がご法度であることは、一般人でも知るところ。にもかかわらず、どうしてこのような事件が起こり、どこに問題があったのか――。
「背景としては、平成バブル期に暴力団の資金が肥大化して、日本の経済活動のあらゆる領域に暴力団マネーが入り込むようになりました。たとえば、広域暴力団の組長が上場企業の株式を買い占めるなどです。実際に事件化したものも多かった一方、株や不動産の取引それ自体はあくまでも合法的な経済行為であり、いくら暴力団関係者だからといっても、そうした合法的な経済行為まで取り締まることは出来ず、暴力団マネーのさらなる肥大化が懸念される事態となりました」
こう語るのは、東京弁護士会で民事介入暴力特別対策委員会委員などを務め、企業の反社問題に詳しい虎門中央法律事務所の荒井隆男弁護士だ。
「そこで、暴力団の経済活動そのものをどうにかしないといけないという観点から、第1次安倍晋三政権時代の2007(平成19)年6月19日付で、犯罪対策閣僚会議幹事会から『企業が反社会的勢力からの被害を防止するための指針』という申し合せが公表されました。それまで当局は企業に対し『反社会的勢力の不当な要求に屈してはダメだ』と指導していたものが、この指針を機に、取引を含む一切の関係遮断を要請するようになりました。その結果、金融機関では暴力団員との間の預金口座開設契約の解除といった実務的な取り組みが行われるようになり、また、その他上場企業の一部でも取引先から反社会的勢力を排除する動きが相次ぐようになりました」
その一方、平成19年の指針と軌を一にする格好で、各自治体で「暴力団排除条例」が制定されるようになる。指針に加えて、この暴排条例が、企業と反社勢力との関係遮断の推進力になっていった。
「暴排条例施行の皮切りとなったのが、県内で特定の暴力団が猛威を振るっていた2010年の福岡県です。そして、各自治体も福岡県に追随することとなり、翌2011年10月には東京都と沖縄県でも施行され、すべての都道府県で暴排条例が出揃うことになりました。そもそも法律としては1992年に施行された、いわゆる『暴力団対策法』がありますが、これは一定の危険性の認められる暴力団を指定して、その構成員らの動きを規制するという法律で、“暴力団員の排除”自体は想定していません。一方の都道府県レベルの暴排条例では、事業者に対する規制として、暴力団員などに対する利益供与を対価の有無を問わずに禁止しています。つまり、法的拘束力を有さない指針によって要請されていた取引を含む一切の関係遮断が暴排条例によって法令による要請へと発展していったと言えます」
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