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吉本興業・大﨑洋元会長が「危機管理」を語ったACFEカンファレンス報告

オリンパス元社長、元エンロンCFOも登場

今年2023年10月に東京都内で開かれた「第14回ACFE JAPANカンファレンス」。ACFE JAPANこと一般社団法人日本公認不正検査士協会が主催する年次総会である。

ACFE(Association of Certified Fraud Examiners)とは、「不正対策」に関する最先端のトレーニングを世界的規模で提供するアメリカ発祥の資格認定機関。現在、全世界に約9万人の会員を擁し、200近い支部を展開している。資格保有者は「公認不正検査士」(CFE)といい、もともとは組織内、特に企業内不正の対応で必要とされる「会計」と「捜査・調査」双方の領域をカバーした専門家を育成する目的から設けられたものだ。現在、アメリカ本国ではCPA(公認会計士)やCIA(公認内部監査人)と並ぶ公的資格とされ、GAO(米国政府会計検査院)や FBI(米国連邦捜査局)、国防総省(ペンタゴン)などにおいても、その重要性が認められている。

一方、日本には2004年10月、リスクマネジメントのディー・クエストグループがアメリカ本部とライセンス契約を結ぶ形で上陸。翌2005年4月に日本公認不正検査士協会が立ち上がり、2008年には一般社団法人化した。スタート時には17名だった会員数も増加し、現在は約2900名を数える。アメリカのCFEは連邦政府をはじめとする公的セクターや会計事務所、経営コンサルタント、金融機関に所属する割合が高いのに比べ、日本では弁護士や公認会計士、あるいは企業の監査系部門、財務・経理部門、コンプライアンス部門などの所属者が多いという。

最先端の知識と実践的な解決策の提供を通じて、不正対策の専門家が結束して不正防止・早期発見に取り組めるよう支援するACFE。10月のカンファレンスはACFE JAPANの一大イベントで、2012年にはオリンパスの粉飾決算事件を告発したマイケル・ウッドフォード同社元社長、2015年には2001年に不正会計で破綻に追い込まれたエンロンCFO(最高財務責任者)のアンドリュー・ファストウ氏といった当事者を招くなど、不正対策に相応しいゲストスピーカーを招聘してきた。

そして今年2023年は「多様化する不正――変化するガバナンスへの展望」をテーマに、1日目の10月11日は会場でのリアルとライブ・オンデマンド配信で、続く12日はオンライン録画視聴で開催された。

今年6月にACFE JAPANの新理事長に就任した岡田譲治・三井物産元副社長CFOのあいさつで始まった1日目の基調講演には、証券取引等監視委員会の橋本尚委員が登壇。「市場の公正性・透明性の確保と投資者保護の実現に向けて」と題して、マーケットの公正性・透明性の確保と投資者保護の実現に向けた証取委の取り組みを紹介するなど、普段なかなか聞くことのできない当局者の肉声が伝えられた。

続くセッションでは、三井物産で常勤監査役も歴任した岡田理事長と前理事長の藤沼亜起・日本公認会計士協会元会長の新旧理事長が、ACFEの評議員を務める玉井裕子弁護士(長島・大野・常松法律事務所所属)をモデレーターに「企業不正に立ち向かう監査役等と会計人に求められるスキルとは?」と題してパネルディスカッションを繰り広げた。

そんな中、10月11日午後にスペシャルゲストとして登壇したのが、吉本興業ホールディングス(HD)前会長の大﨑洋氏である。大﨑氏は今年、吉本興業HDの会長を退任し、現在は大阪・関西万博催事検討会議共同座長を務める。その演題は「組織を守るために――リスクマネジメントと非上場化」。

大﨑洋・吉本興業元会長

「吉本興業・大﨑洋×リスクマネジメント」――。一見すると、「?」な関係のよう見えるが、リスクマネジメントは、多士済々の芸人・タレント6000人を抱える吉本興業にとって、企業運営上、避けては通れない課題である。事実、大﨑氏自身、意図する、意図せざるを別として、否が応でも会社そのものを含む危機管理を余儀なくされてきた吉本人生だったと言えよう。

吉本“疑心暗鬼”の中で進めた「非上場化」の苦悩

「今年6月の株主総会まで吉本興業というところに46年間、サラリーマンで勤めていました。やっと“悪の巣窟”から抜け出しまして、今はすごく清々しい気持ち」

セッション冒頭、吉本興業をして「悪の巣窟」とツカミをとった大﨑氏。会場は笑いに包まれた。そして、そこからは本題、社長として2010年2月に成し遂げた非上場化を中心に話が進んでいく。

そもそも、1978年に吉本に入社した大﨑氏が「ダウンタウン」を見出したことはよく知られる。1980~90年代は、主にタレントのマネージメントやテレビ番組プロデュースといったエンターテイメントの最前線で活躍した。それが2000年代に入ると、役員として会社の経営中枢に入っていくことになる。専務、副社長を経て社長に就任したのが2009年だった。

当時の吉本興業は、東証・大証一部に株式を公開する上場企業。その反面、数パーセントの持ち株しか保有しない創業家からの圧力を受けながら、株主の一部には反社会的勢力が跋扈し、さらには両者が水面下で結託して経営介入の機会を虎視眈々と狙っていた。当然、吉本社内も疑心暗鬼に包まれ、スキャンダラスな誤情報が外部にリークされて、その火消しに追われる日々が続いていたという。

当の大﨑氏自身、社内の数人程度しか信用できない有り様だったといい、そうした中、上場企業、吉本興業が抱えるさまざまな負の遺産を断ち切るには株式市場からの退場、つまり、非上場化しかないと決断。大﨑氏は数人の仲間とともに、非上場化へと走り出すことになる。

そして、社長に就任して迎えた2009年6月25日の初めての株主総会。その前面にはコワモテの株主たちが陣取っていた――。

総会を乗り越え、大﨑氏率いる吉本興業は最終的に非上場化を成し遂げるわけだが、そこに至る道のりはあまりにも苦難に満ちたものだった。時に笑いを交えながら、吉本興業の非上場化に加え、その後の吉本、そして企業・組織におけるリスクマネジメントについて、語り尽くした大﨑氏。続くスペシャルゲスト対談では、ACFE JAPAN評議員会会長を務める八田進二・青山学院大学名誉教授を相手に「健全な組織運営のためのガバナンス」をテーマに語り合い、催事検討会議共同座長を務める大阪・関西万博への思いを明かした。

対談でも”大﨑節”――
(左から八田進二・青山学院大学名誉教授、大﨑洋氏、中多広志・吉本興業元取締役)

……これらは講演のほんの“触り”に過ぎないが、大﨑氏の講演全編を通じて語られるのは、まさに“修羅場”におけるトップマネジメントの在り様である。ACFE JAPANでは11月17日金曜日申込分まで大﨑氏をはじめとする各セッション全編が視聴できる(視聴は12月7日木曜日まで)。本稿ではすべてお伝えしきれない、「大﨑洋×リスクマネジメント」の醍醐味をぜひとも味わってほしい。

なお、「Governance Q」運営会社のディー・クエストグループはACFE JAPANのオフィシャルサポーターを務めている。

第14回ACFE JAPANカンファレンス特設サイト
https://www.acfe.jp/events/2023_conf/

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