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【外資系金融・元危機管理責任者の“不祥事伝承”#2】不祥事の“風化抑止”こそ経営課題の時代

#1記事で、昨今の「行政・司法リスク」の高まりを受けて、不祥事を引き起こした企業は、その実像をこれから入社してくる後進を含めて社内外で共有し、 “伝承”していく必要性を語った外資系金融グループで危機管理対応の元責任者、白井邦芳・社会構想大学院大学専任教授。しかし、公益通報者保護法改正など、企業における不正・不祥事の代償はますます重くなっていくばかりだ。従来型の対応では、企業不祥事が免罪されない時代の再発防止、そして風化抑止の方策とは――。全2回の最終回。

行政はもはや不祥事企業設置の「第三者委員会」すら信用していない

#1記事の最後で触れたとおり、社外取締役の存在感が増している近年の流れの中で、40年、50年と繰り返されてきた不祥事が発覚、世間からの強い指弾を浴びました。特に自動車業界の排ガス・燃費データのデータ改竄が発覚した2018年頃から、この手の不祥事が次々と公表され、結果、合計数十社ぐらいで長年にわたる不正があったことが明るみに出たのです。

#1記事の冒頭で、2年前ぐらい前から行政が風化抑止策を徹底させるよう企業を指導し始めた旨をお伝えしましたが、取り立てて決定的なきっかけとなった不正事件があるわけではありません。ただし、最初に風化抑止策の徹底を求め始めたのは、国土交通省と言われています。ちょうど不動産業界や建築業界で、耐震偽装や、マンション建築の不良部品使用などが発覚。また、自動車関係でも不正が見つかるなど、旧建設省と旧運輸省を母体にする国交省管轄の業界で不祥事が多発したのです。

それまでは業務改善命令が出される場合、記者会見を省庁の記者クラブで行うことが通例でした。ところが国交省では不祥事が多すぎて、連日お詫び会見の開催で不便を強いられる状態が続いたというエピソードすら残されています。

不正を何十年も行い続けるというのは、基本的に企業の内部統制に限界があるからにほかなりません。逆に言えば、経営者の強いリーダーシップがなければ、不祥事を防ぐ、あるいは不正を断ち切るのは不可能ということでもあります。自浄努力で不祥事が防げないのであれば、当然、行政が動かざるを得ない。当初、行政は不祥事企業に対し第三者委員会の設置を促していたのですが、最近では、その第三者委員会ですら行政は信用していない段階にまで来ているようです。

各企業が「不祥事の伝承」に敏感になってきたという近年の傾向は、間違いなく行政の厳しい視線を強く意識しているからでしょう。これまで免許事業ではない一般の事業会社側は、あまり監督官庁に対する付き合いを重視していませんでした。ところが、最近では、そうした免許事業でない会社でも、行政の期待する事業活動への認識を適切に把握する目的で行政機関へのロビー活動を積極的にやっていきたいという企業が増える傾向にあります。それは「行政対応」をしっかりとやっておかないと、不祥事を引き起こした際に行政自体がリスクになるという企業側の意識の表れだと考えられます。

「公益通報者保護法」を悪用し“不正社員が守られてしまう”ケースも

昨年2022年、公益通報者保護法が改正されたことで、内部通報をしても会社は動かないと判断できる場合など一定の条件下で行政やメデイアへの外部通報が認められることになりました。今では社員が監督官庁に自社の不祥事・不正を“外部通報”する際には、事態の緊急性を踏まえて弁護士同伴で向かう傾向が増えているといいます。省庁に対して事前に「今から外部通報しますので、受け付ける準備をしてください」と伝えて省庁に行き、公益通報に該当するかどうかのチェックをして、省庁の担当者が「あなたを『公益通報者』と認定します」と、弁護士の立ち会いのもとで認定される運びになっているのです。

これまでは会社が発表する前にネットなどで不正の書き込みが拡散した結果、行政が報告徴収命令を出すのが通例でした。しかし近年では、ネットなどで何の書き込みも出ていない状況で、いきなり報告徴収の要請が出ます。予想外の要請に対して会社側は驚き慌てて動くケースが増えているのです。こうしたケースが増えてくると、企業側は行政との関係を密にしておいたほうが良いと考えますし、実際にそのように対応を修正してきています。

ひと昔前ですと、たとえば、その業界団体で所轄官庁の天下りを受け入れるケースなど、業界と行政の持ちつ持たれつのような関係が続いていました。しかし近年では、そういう関係が払拭されてきて、行政と企業との間で意思疎通が円滑ではなくなってきた。改正公益通報者保護法で公益通報者として認められれば、行政側は誰から情報を得たのかは秘匿できますから、行政と企業との関係はさらに厳しい関係となるでしょう。つまり、不祥事を風化させてはいけないという企業側の危機意識は、担当レベルよりも経営層が強く意識するようになっています。

現在、当社のクライアントは、700社ぐらいあり、そのうち380社が上場企業です。その380社を見ても、金融庁の所管の金融関係企業以外ではコンプライアンス系の部署はほとんど力を持っていません。当然、コンプライアンスに関するマニュアルは作成されていますが、不正が起きたときに自分たちだけで調査が出来ないぐらい部署は弱体化しています。はっきり言って、存在意義すらないところがほとんどというのが実情です。また、法務部と言っても、日々の主な業務は契約のチェックだけと言っても過言ではありません。役割は反社会的勢力の排除に集中していて、あとは契約の内容をチェックするということぐらい。本来のあるべき姿から程遠いのです。

機能していないという点では、労務・人事系のセクションがこの数年の中で一番酷い状態だったというのが私の印象です。先述のとおり、2022年に公益通報者保護法が改正されました。たとえば、会社の中である社員が不正を知って、社内の内部通報窓口に通報しようとします。すると、不正を働いた本人が、通報しようとした社員の行動に気付き、先回りして「自分が社内で嫌がらせを受けている」という噂を流すという本末転倒なケースも起きています。つまり、事案の加害者が別の事案の被害者として内部通報窓口に公益通報する。こうなると、内部通報者を守らないといけないので、会社は不正を働いた張本人を守ることになる。公益通報制度を悪用して、普段と変らず社内で仕事に復帰している人が増えているのです。そういう意味では、間違った方向に向かっていると言わざるを得ません。

「マスコミ対策」が不祥事対応とはならない時代に

企業の不正や不祥事が発覚して危機全体が完全に鎮圧されるまでには短いものだったら半年、長いと5年程度はかかります。メディアが注目するのは最初のワンクールで、おおよそ3カ月です。3カ月後、よほど興味深い特殊なケースなら、それ以降も継続してウォッチすることもあるでしょうが、それでも完全鎮圧の5年に対して4カ月といった程度です。

対して行政には、3カ月に1回、不祥事対応の進捗状況を記した報告書を出さければいけません。結局、行政にはきちんと説明し続けてお墨付きをもらわなければいけないことになります。しかも、2回の期限までに風化抑止策を達成できていなかったら“トップ更迭”というリスクが迫っているわけですから、企業にとって行政は今や脅威とすら言える状況です。

つまり、企業不祥事の伝承、その風化抑止策を徹底させるというのは、経営レベルの課題になっているということです。経営トップが率先して社員に対して自分たちでやった不祥事を反省していくことが何より大事になります。 

経営トップは、行政にする風化抑止策をきちんとする。そうしないと、場合によっては自分自身の首が飛んでしまう――。そんな局面にきています。これまでは「記者会見がうまくできたら社長は辞めなくていい」という不祥事対応の不文律があったのですが、これからは不祥事を起こしたら経営トップの8割は辞任しなければならない時代に入ってきているのです。

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