King Gnuの「IKAROS」と、経営判断原則の要諦【遠藤元一弁護士の「ガバンス&ロー」#3】
ギリシャ神話「イカロス」に見る経営者の“勇気”と“傲慢”
2023年11月末にリリースされたKing Gnu(キングヌー)の4thアルバム『THE GREATEST UNKNOWN』の収録曲の1つである「IKAROS」は、曲のタイトルや、歌詞の一部から、ギリシャ神話の登場人物イカロスを歌ったものだと理解できる。
クレタ島に追放された高名な職人ダイダロスは、怪物ミノタウロスを監禁する迷路の建設を任され、迷路を建設したが、秘密を守るために息子のイカロスともども幽閉された。ダイダロスは脱出するため、自分とイカロス用に羽毛とろうそくで翼をつくった。しかし、適度な高さで飛ぶようにとの指示にもかかわらず、イカロスは飛行の快楽に酔いしれて太陽に近づき過ぎ、蠟の翼が溶けて悲劇的な死を遂げる――。自然法則に反抗した結果と傲慢の危険性を示唆した内容とされる。
コーポレートガバナンス・コードへの対応、サステナビリティ課題への取り組み、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」への対応など、近年、企業活動を取り巻く環境は急速に変化を続けている。このようなVUCA(ブーカ、変動性・不確実性・複雑性・曖昧性の複合語)の時代にあって、「経営判断の原則」が問題となる局面は必然的に増加しており、今後も増加することが予測される。
【日本取引所グループ】「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する今後の施策について
https://www.jpx.co.jp/news/1020/20240830-01.html
経営判断の原則は、会社の事業活動に関して取締役に広い裁量を認めている。経営判断が仮に会社に損害をもたらす結果を生じさせても、判断の過程、内容に著しい不合理な点がなければ取締役は善管注意義務違反とはならないとする法理だ。取締役が過剰に保守的(リスク回避的)な経営に陥ることを防ぎ、企業が不確実な状況において企業価値向上のために積極果敢にリスクテイクすることを後押しすることに貢献するものと評価できる。
ただ、広い裁量が認められるからといって、安易な経営判断では、後日、杜撰な判断だったとして「善管注意義務違反」の責任を問われかねない。経営者(取締役)は、経営判断の原則の論拠を理解し、トリセツ、つまり具体的な経営判断にあたり、その原則が適用される(善管注意義務違反とされない)ためにどのような手順を踏むべきかを理解してその手順を踏むこと、また、経営判断の原則が適用されないのはどのような場面なのかを理解しておくことが重要である。
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