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King Gnuの「IKAROS」と、経営判断原則の要諦【遠藤元一弁護士の「ガバンス&ロー」#3】

経営者が「善管注意義務違反」と判断されないためにすべきこと

経営判断の局面で取締役になぜこのような広い裁量が認められるのか。

① 会社の経営は、流動的な状況の下で迅速な判断を迫られることが多く、しかも考慮すべき事情は不確定な将来情報を含めて多岐にわたり、かつ複数の選択肢(しかしどれかひとつのみが正解ということはほとんどない)があるため、おのずから広い裁量が認められる。

② 取締役は短期的な利害得失だけでなく、中長期的な利害得失にも配慮して任期内にトータルで企業価値を挙げることが求められる。

以上が、最高裁調査官や裁判官の経験のある実務家による説明である。

そして、経営判断原則が適用され、善管注意義務違反と判断されないためには、①情報を収集し、分析・検討を行う「過程面」と、②そのようにして分析・検討した情報を基礎として議論をして決定する「内容面」とに分けて、過程面は不注意な誤り(過失)がないと言えるだけの慎重さ・用意周到さで準備を行い、内容面では、著しい不合理なものになっていないと自他ともに言える程度のものとすることを心がけること、しかも、いざという時はそれを事後的に検証できるように記録化しておくことが実務上、重要なポイントである。

ところが、最高裁が2010年に、過程面と内容面ともに著しく不合理でなければよいと判示したように読める判決(アパマンショップ判決・最判平成22・7・15判時2091号90頁)を出したため、その後、そのような読み方は間違いだという解説が公表されている。それにもかかわらず、学説・実務では、その間違った理解が払拭されていない。また、理論的な批判として、過程面と内容面とは明確に区別できないなどの批判も依然として根強く残っている。

しかし、だからといって過程面と内容面を区別せず、経営判断は「著しく不合理なものになっていない」ならば“問題はない”と安易に考えると(実際、このように都合よく解釈する企業実務家も少なくない)、株主代表訴訟などにおいて善管注意義務違反と判断され、損害賠償責任を負う可能性が否定できない。

その結果、極論すると、King Gnuの「IKAROS」の歌詞のように、企業や取締役を窮境に追いやる顛末にすらなりかねない。過程面では慎重かつ用意周到な準備を行い、内容面では著しい不合理なものになっていないと自他ともに言える程度のものとすることが、責任を問われるリスクを抑止しつつ果敢な経営判断をする上でのキーストンである。

なお、経営判断原則が適用されない場面として、一般的に、①法令違反が問題となる場合、②取締役と会社の利益相反がある場合、③他の取締役・従業員の監視・監督が問題となる場合が挙げられる。①~③に経営判断の原則が適用され得る場合はありうるが、このような整理を踏まえた対応が重要である。

遠藤元一:弁護士(東京霞ヶ関法律事務所) ギリシャ神…
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