《最終回》米司法省 棄却でも残る「起訴の烙印」を消す“不条理な闘い”【逆転の「国際手配3000日」#4】
有吉功一:ジャーナリスト、元時事通信社記者
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(前回までの記事【米司法省が訴追した「日本人外銀マン」逆転の“国際手配3000日”】)ここまで書いた時点で、オランダの金融大手、ラボバンクの元マネジングディレクター、本村哲也氏(52)の身に厄介な問題が起きた――。
それは、今年7月の英仏両国出張に続き、8月にプライベートで英国を皮切りに欧州各国を訪れた際の出来事だった。
8月12日夜、本村氏は再び、ヒースロー空港に降り立った。前回7月にはeゲート(自動化ゲート)を問題なく通過できていた。だが、今回も同じゲートを通り抜けようとしたところ、アラートが表示されてしまったのだ。
本村氏は有人ゲートに誘導され、入国審査官のチェックを受けることになった。しかし、アラートの内容が示されることはなかった。複数の審査官が対応し、最終的には入国が許可されたが、思い当たる節はあった。
自身に関する情報だ。米司法省のホームページ上では、本村氏の起訴が取り消された旨が明記されていない。つまり、本村氏は依然、“被告人”ということになる。古い情報がボーダーウオッチ(出入国監視)システムに残っていた可能性があるのだ。
有罪判決が覆ったラボバンクの元同僚の場合、《更新 2017年12月8日、第2管区(連邦控訴)裁判所はアンソニー・アレンおよびアンソニー・コンティの有罪判決を破棄し、起訴を取り消す執行命令を発出した》と、米司法省ホームページに追記されている。
日本国内でも、類似の問題が報じられたことがある。機械メーカーの大川原化工機の社長らが軍用転用可能な装置を不正輸出したとして逮捕・起訴され、約1年後に起訴が取り消された事案をめぐり、インターネット版の警察白書に、事案概要の記載が残されたままになっていたのだ。
大川原化工機側は警察庁に削除を要請。最終的に削除されたが、そこに至るまでにさらに約1年を要した。
個人にとっては、特に公的文書にいったんネガティブな情報が記載されると、長期にわたって多大な影響を受ける可能性があるのだ。
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