野村 彩:弁護士(和田倉門法律事務所)、公認不正検査士(CFE)
かんたん!「会計不正のつくりかた」レシピ
① まずトップダウンで無理な目標を設定します。数字はあなたが好きに決めて結構です。「こうだったら最高」という設定にしてしまいましょう。
現場の意見を聞いてはいけません。
あなたの部下は「人も設備も足りないのに……」なんて弱気なことを言うかもしれません。が、耳を貸してはいけません。「ストレッチだ」と言い張って数字を押し付けましょう。
② ここで注意したい点ですが、目標としているものが無理な数字なので、ふつうにやっていては達成することができません。
部下に圧をかけましょう。圧は強ければ強いほど効果的です。怒鳴る、ペンを投げるなどの物理的な圧が良いでしょう。
精神的に追い詰めるのであれば「できなければクビだ」と脅すという方法もあります。「1週間以内にできなければ、どうなるかわかっているだろうな」などと期限を切ることもありますね。
パワハラと言われるのが怖い? それでは淡々と詰めましょう。「なぜ達成できないのか、説明せよ」と言い続けると良いでしょう。部下が管理職の場合は「お前は管理職なのだから説明責任があるだろう」という言い方もよく使われます。
③ 上記②を継続して行うと、自然に、あなたの部下は、そのまた部下に同じことをするようになります。部下が部下に圧をかけ始めるのです。ただ、ここで満足してしまってはいけません。さらに辛抱強く追い詰めていきましょう。
するとどうでしょう。あなたが言わなくても、部下が勝手に忖度してくれるようになります。
そこまで来れば、ゴールは見えたようなものです。忖度が忖度を呼び、魔法のように次々と数字が産まれてきます。
一度魔法がかかればもう、あなたが数字のことを心配する必要はありません。部下が魔法の数字を生み出してくれるのですから。あなたはプレッシャーから解放されます。良かったですね。
④ そうそう、最後にひとつだけ注意が必要です。
魔法で生まれた数字は、真夜中の12時の鐘が鳴ると消えてしまいます。魔法は永遠には続かないのです。気をつけて……。
「パワハラ+無理な目標=会計不正」という方程式
当職はこれまで、あらゆる場面で、無理な目標とパワハラのセットが最悪であることを述べてきた。このたびのニデック社の会計不正においても、ものの見事にこの方程式が当てはまっている。「またしても」という思いだ。
2026年2月に公表された、第三者委員会による調査報告書*1は、トップである永守氏の「プレッシャー」が組織に与えた影響について、実に大胆に浮き彫りにしている。例えば、具体的な言い方はこうだ(以下、いずれの引用についても太字化は筆者によるもの)。
*1 (ニデック株式会社宛)第三者委員会「調査報告書(公表版)」(2026年2月27日)
https://www.nidec.com/files/user/www-nidec-com/corporate/news/2026/0303-01/260303-01jp.pdf
■ 業績管理部門に対して「どいつもこいつもやる気なしの無責任野郎ばかり揃いやがって!経営音痴の数字づくりではどんどん目線が下がっていく。却下だ。全員やめてくれや!こんな人物と一緒に仕事は出来ぬ!」*2
*2 前掲調査報告書79頁
■ CFO(最高財務責任者)に対して「大きなチャンスを貰っておきながら、そのチャンスを掴めず問題ばかり発生させている現在の君の醜態は君の怠慢たる人間性が主因だと思うがな!恥を知るべきだ!」
「また今期も前期と同じ未達を繰り返すような業績進捗指揮力では、CFOを退任して貰うしかない。」
「もうこれ以上計画未達を続ける場合は、潔くこの会社を去っていってほしいと思う。」「君にとって最悪の結果にならないことを祈っているので、死ぬ気で結果を出していってほしい。」*3
*3 前掲調査報告書95頁および96頁
■ 事業幹部に対して「私は君が入社以来、何度となく厳しい指導をしてきたが、君ほど指導しがいのない人物は日本電産創業以来初めてである。……まさに『君は日本電産を潰すために来たのか?』という問いになる。私の元から損害だけ残して敵前逃亡していくのか、それとも死ぬ気で働いて損失を埋めてくれるのか?」
「君は任せて安心たる人物とは言い難く、社長の器とは言えないのではないか!。経営管理が全くダメであり信頼できないので、今のようなミスばかりやっておれば社長交代となると思っておいてほしい。君は口ばかり立派なことを言うが、実力が伴わないので計画未達を続けて失望感ばかりでがっかりである。今のままでQ4も未達にすれば、社長交代が待っていると思っておいてほしい。君のような人物を社長に抜擢したのは間違いだった。折角のチャンスを与えて貰っておきながらそれを掴めない君も情けないと思う。」*4
「Q2は絶対未達にするな!」*5 「事業計画未達は悪なんだよ!」*6
*4 前掲調査報告書96頁 *5 前掲調査報告書97頁 *6 前掲調査報告書98頁
■ 創業メンバーに対して「頼りにならない人物ばかりで、ここまで会社を大きくしてきた私が間違っていたと思うしかないのだろう。君を頼りにしてきた私が馬鹿だったようだ!。」*7
*7 前掲調査報告書97頁
このような経営幹部への圧力は、幹部から部下へと伝わって行き、当然にその範囲ではとどまらず、組織構造の下に下に積み重なり、ぎゅっと密度が高まってゆく。
調査報告書では、このような圧力が現場に与える影響も克明に記されている。
■ 「(永守氏の)強力なリーダーシップの下、ニデックグループにおいては、長年にわたり「赤字は悪」であるとの考え方が徹底され、業績目標が必達のものとして捉えられていた。」*8
*8 前掲調査報告書16頁
■ 「業績目標は長年、永守氏によるトップダウンで決定され、各事業部門や子会社に割り当てられていたが、それは、投資家目線でどの程度の成長が求められているかといった観点からの目標であり、事業部門や子会社の実力を超えるものであった。」*9
「その上で、永守氏は、事業部門や子会社を所管する本社の執行役員やCFOに対して、業績目標を達成するよう強いプレッシャーをかけていた。/ニデック本社の執行役員らに対する業績プレッシャーは、そのまま事業部門や子会社の幹部に対するプレッシャーへと繋がった。」*10
*9 前掲調査報告書16頁(なお、調査報告書では「トップダウン」という言葉が10回以上登場する)
*10 前掲調査報告書16頁
■ 「当委員会が把握した事例の中には、業績目標に達していない中、ニデック本社の執行役員が、連日会議を開いて、子会社の幹部に対し、営業利益目標を達成していないことを責め立て、徹夜をしてでも営業利益を捻出するよう指示するといった、無理難題ともいえる指示を繰り返す例もあった。これは、決算期末終了後であっても例外ではなく、営業利益の速報値が見込みよりも悪かった場合には、決算締切りまでに数値を積み上げるよう指示がなされていた。」*11
*11 前掲調査報告書16頁
■ 「(永守氏から)日常的に事業部門や子会社の幹部に対して直接プレッシャーが加えられていた。このように、強い業績プレッシャーがかけられる中、例えば、売上の早期計上、棚卸資産の評価損や固定資産の減損の回避、資産の評価方法の変更、コストの資産化といった会計処理によって業績目標を達成しようとする事業部門や子会社も少なくなかった。」*12
*12 前掲調査報告書16頁および17頁
このようにして圧力は増殖し、パワハラを産む。そしてパワハラには大きな副産物がある。それが「忖度」である。
誰だってパワハラなんて受けたくない。精神的に死まで追い込むことすらあるのがパワハラであるから、これを避けたいのは当然の人間の本能だ。
だとすれば、部下としては、パワハラを受けることが予想できるような場合に、それを「忖度」して、受けなくて済むようにあらかじめ数字を改竄する……。これもまた本能の働きである。
トップがパワハラを用いてプレッシャーをかけ、それが増殖し、忖度を産む……。もはや方程式と言っても良い構図である。
「負の遺産」を解消しようと立ち上がった人たちはいた、それなのに
そして、ニデック社の件で注目したいのが、負の遺産の解消についての構造である。
同社では過去から脈々と減損回避などの不適切な会計処理が行われていた。経営陣もこれを把握し、2016年には「資産健全化プロジェクト」が立ち上げられ、実行に移されている。また後には外部の弁護士を起用した調査が行われたこともあった。
にもかかわらず、なぜ、このときに自浄作用が働かなかったのか。
それはひとえに、「負の遺産を解消する。ただし、自らの予算(セルフファンディング)で。営業利益目標を達成しながら」という無理な前提が押し付けられていたからに他ならない。
そもそも負の遺産とは、営業利益を良く見せるために回避した減損などの積み重ねによるものである。したがって、この遺産を解消させれば、よく見せていた営業利益の真実が浮かび上がる、すなわち当然に営業利益は減ることになる。「負の遺産の解消、イコール営業利益を諦めること」なのである。したがって、「負の遺産を解消する。ただし……」という命題はそもそも存在し得ない。はじめからこのプロジェクトは欺瞞であった。
他方で永守氏は、本来の会計のあり方については「王道経理」を説いていた。
「不正行為によって事業計画過達にするぐらいなら未達で結構です。」と、述べていたのである*13。
*13 前掲調査報告書201頁
素晴らしい。正しい考え方である。まさに「必ずやる」ではなく「正しくやる」ということを、本件が世に広まる前から説いていたということになる。
しかしながら、一方で永守氏が業績達成の圧力を緩めることはなかった。
結局、トップの号令そのものが矛盾していたのであるが、そのことは、調査報告書で現れた、幹部の次の発言にすべて集約されている。
「永守氏ら経営陣は、『王道経理』、『コンプライアンス遵守』と繰り返し述べているが、同時に、不正を引き起こすような非常識な業績目標を設定し、それを絶対に達成するよう強いプレッシャーをかける。『自分は正しいことをしろと指示したが、不正をしたのはお前たちである。』と言っているのに等しく、『狡い』と思う。」*14
*14 前掲調査報告書89頁
正しい経理処理やコンプライアンスを実施するには、結局、どこかで数字を犠牲にする必要がある。グレーな営業を控えれば売上は下がる。管理部門の人手が必要なのだから人件費だってかかる。ビジネスパーソンなら誰だって分かる、当たり前のことだ。
「正しいことをしろ。ただし正しくやると不可能な数字を達成せよ」という指示は、およそ業務命令とはいえない。単に経営者にとってだけ都合の良い、虚構に過ぎないのである。
(毎月1回連載)
