フジテック#4 前会長のオアシスへの反撃と限界【株主総会2023】
追放された創業家が“返り咲けない現実”
内山たちが外国特派員協会で会見をしたのは4割を超える海外株主へのアピールが目的だったが、海外メディアからの質問はなかった。米議決権行使助言会社のインスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)も株主提案に全面的に反対推奨した。
ISSの主張は、主に次のようなものだった。
〈2023年2月の役員改選以降、フジテックの役員に疑義を抱かせるような事象があったとは聞いていない〉
〈新しい取締役会が、会社の業績に与える影響を判断するのは時期尚早だが、新しい取締役が選任されてから本分析日(6月2日)までに株価は 11.9%上昇し、過去 10 年以上見られなかった水準で取引されている。これは、市場が新しい取締役会と経営陣のもとで、会社の将来に楽観的な見通しを持っていることを示唆している〉
〈また、3ヶ月前に再構成されたばかりの取締役会に再び大きな変化をもたらすことは理想的とは言えず、さらに会社の経営に混乱をもたらす可能性がある〉
内山たちはISSに反論したが、その効果はほとんど見られなかった。
果たして6月21日、ウチヤマ・インターナショナルの株主提案は、すべて否決された。株主提案議案の賛成比率は、12.51〜18.22%。取締役候補で最も高い賛成比率を得た沖本でも13.45%にとどまった。内山側の持ち株比率が約10%だったことを考えれば、創業家の主張は、海外株主はおろか、日本の機関投資家や個人株主にも受け入れられなかった。一連の騒動を見守ってきたフジテックの関係者は、創業家の主張が一切顧みられなかったことについて、こう語った。
「敗因は、2022年6月の定時株主総会にある。内山さんは敵前逃亡した挙げ句に会長にとどまった。一度でも株主ガバナンスを否定した影響は、彼が考えていたよりも大きかった」
追放された創業家が主導権を取り戻すことは難しい。すべては、内山高一の“ガバナンス音痴”が招いたことだった。
(文中敬称略・以下#5に続く)
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