フジテック#1「追放創業家」が選んだ“最悪の選択”【株主総会2023】
2023年6月開催の株主総会で注目を集めたエレベーター大手、フジテックの「アクティビスト(物言う株主)vs.追放創業家3代目」の総会バトル――。会社を追われた元会長が異例の「株主提案」を繰り出し、全面対決の様相を呈したが、その提案が株主たちに受け入れられることはなかった。結果的にアクティビスト・ファンドの経営支配が是認される形となったフジテック。数カ月前まで“絶対権力者”として社内で君臨した創業家出身トップは、アクティビストの猛攻の前に、いかに権力を失い、会社を追い出され、そして6月総会の“天王山”で敗れ去ったのか。コーポレートガバナンスの観点からシリーズで徹底検証する。
創業家が喫した「株主提案」の惨敗
東京・丸の内の日本外国特派員協会で、エレベーター大手、フジテックの元社長、内山高一が会見を開いたのは6月2日午後2時のこと。会見場には、香港系ファンドの「オアシス・マネジメント」への恨み節が響き渡っていた。
内山は、こう怒りをあらわにした。
「やり方というものがある。フェイクニュースを流して、メディアを使ったネガティブキャンペーンをこの1年間続けられた。オアシスのCIO(最高投資責任者)は、私が会社のカネを盗んだという発言までしている。堪忍袋の尾が切れた」
フジテック創業家の3代目として約20年にわたり同社を率いた内山は、この日からおよそ2カ月前に手塩にかけて育て上げた会社から事実上、追放された。オアシスは、17%の株を握るフジテックの筆頭株主。彼らが送りこんだ取締役たちは、取締役会で多数派を形成、当時会長職に就いていた内山を速やかに解任したのだった。
この日の会見の目的は、内山が代表を務める自身の資産管理会社「ウチヤマ・インターナショナル」の「株主提案」について外国特派の記者たちに説明すること。会見が進むにつれて壇上の発言者のボルテージは上がっていった。内山側の取締役候補たちは、オアシスのなりふり構わぬ創業家攻撃を厳しい口調で批判してみせた。
「(オアシスのやり方は)内山会長の個人のプライバシーを暴いて、その情報を流すということまでやって、場外乱闘で勝つという手法。ビジネスならビジネスのやり方というものがあろうかと思います。オアシス恥を知れ! と私は申し上げたい」(沖本普紀・元ボストンコンサルティンググループパートナー=株主提案側の取締役候補)
「少なくとも今のオアシスの状況を見ますと、グリーンメーラーとかVulture(ハゲタカ)ファンドなどという(生易しい)ものではない。『マウンテンリーチ(山蛭)ファンド』、つまり動物の血を吸って、すっからかんにして売却してしまうファンドと言っていい」(小手川大助・元財務官僚、IMF=国際通貨基金日本政府代表理事=同)
しかし、彼らのオアシスへの強い危機感は、フジテックの株主たちには伝わらなかった。6月21日に開かれた定時株主総会で、内山側が提起した選任議案はすべて否決される。結果は惨憺たるもので、8人の候補者たちの賛成比率はそれぞれわずか12〜13%にとどまった。
ウチヤマ・インターナショナルとその関連会社、さらに内山個人の保有株式が合わせて約10%だったことを考えれば、彼らの主張は、持ち株比率が4割を超える海外投資家はもちろん、日本の機関投資家たちにもまったく理解されなかったのだ。
内山高一の追放劇と株主総会での惨敗劇のウラには何があったのか。フジテック創業家の直面した“現実”を検証していこう。
“アクティビストの中のアクティビスト”に狙われたフジテック
内山高一は1951年7月16日生まれで、卯年の2023年は年男だ。周辺筋によると、実直な性格で、取引では信頼関係を重視するという。事実、それはフジテックの業績にも表れていた。
父の正太郎が1948年に創業した富士輸送機工業は、ビル内蔵型の立体駐車場を皮切りに、エレベーター開発に注力した。その傍ら、早くから香港や韓国、シンガポールに進出。1974年に「フジテック」に改名し、翌1975年には世界最大のエレベーター研究塔を用いるなど、独立系専業の昇降機メーカーとして存在感を示し続けた。現在は海外20万台、国内8万台の昇降機を設置し、国内第4位の地位を占めている。
2023年3月期の売上高は2000億円台に達し10年前から倍増、2023年3月期は約84億だったが、近年は概ね90億~100億円規模の純利益を上げてきた。潤沢なキャッシュをはじめ、1000億円に迫る内部留保を蓄えたフジテックは、借金に頼らない堅実堅調な実績を残してきた。
ところが、株価はパッとしなかった。資本効率や株主還元を進めれば、株価の上昇が見込める優良企業。そこに目を付けたのがオアシスだった。アクティビストに詳しいマーケット関係者は、オアシスについてこう説明する。
「オアシスは“アクティビストの中のアクティビスト”と言える。村上世彰率いる旧村上ファンドと同様に、増配や自社株買いの株主還元を求めるなど果敢にモノを言うが、村上ファンド以上に経営にコミットしようとする。近年、顕著になっているのが、株主提案で役員を送り込み、経営を根幹から変えてしまう手法。ここまで積極果敢に企業にモノを言うことは、手間もコストもかかるので、(経営を根本的に転換させるという点で)他のファンドにとっても都合がいい。オアシスは、会社から恐れられる存在でありながら、マーケットからは期待される存在でもある」
その儲けのシナリオは、幾通りかある。単純に株主還元を迫り株価を上げて、上昇したところで売却することもあれば、資本効率や経営資源の集約などの合理化策を実施して、同業他社にTOB(株式公開買い付け)させることもある。たとえば、オアシスがピーク時に10%近くを保有した東京ドームは、三井不動産によるTOBで2021年に上場廃止。同じくピーク時に約6.5%を保有した島忠もニトリホールディングス(HD)によるTOBで2021年に上場廃止した。集約が進みにくく、各業界で企業がダブつく日本で、オアシスは業界再編を仕掛け、自身は売却益を得てエグジットする戦略だ。
日立製作所や三菱など、財閥系の強豪ひしめく昇降機メーカーにあって国内業界4位、オーチスやシンドラーなどが2ケタ以上のグローバルシェアを持つ世界市場では7番目と中途半端な立ち位置のフジテックは、オアシスにとってM&A(合併・買収)による再編を仕掛けるにはうってつけの投資先だった。
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