フジテック#3 オアシスの飴と鞭「会社側取締役」の保身と転向【株主総会2023】
2023年6月開催の株主総会で注目を集めたエレベーター大手、フジテックの「アクティビスト(物言う株主)vs.追放創業家3代目」の総会バトル――。その前哨戦となった2月の臨時株主総会で、オアシスは社外取締役の“総入れ替え”を画策した。採決の結果、両者の取締役数が伯仲するなか、オアシスは会社側の社外取を追い込むと同時に、懐柔の手も打つ。そして、創業家3代目は外堀を埋められ、会社を完全に放逐されることになる。#2記事に続く第3弾では、臨時総会後の展開を描く。
綻びが露呈した「社外取締役」突然の辞任
(#2から続く)アクティビスト(物言う株主)ファンドのオアシス・マネジメントに翻弄されたフジテックの関係者はこう語る。
「内山高一社長の独断専行が当たり前だったフジテックの取締役会は、決して一枚岩ではなかった。その綻びが露わになったのが社外取締役のひとり、引頭麻実の辞任だった」
2021年にフジテックの社外取締役となった引頭は、元大和総研専務理事を経て証券取引等監視委員会の委員や、味の素、AIGジャパン・ホールディングスなどの社外取締役や社外監査役も務めていた。彼女がフジテックを去ったのは、臨時株主総会のわずか3日前のこと。辞任により、引頭の解任決議案は撤回された。
前出の関係者は、「解任されると、自身の経歴に傷がつくと考えたのだろう」と語ったが、オアシスの“ガバナンス・プロパガンダ”は、社外取締役たちを大きく揺さぶったのだ。
引頭が辞任する8カ月前、2022年6月の定時株主総会で、フジテック創業家の社長(当時)の内山高一は株主総会の直前に突然、自身の取締役選任議案を取り下げた。ところが、株主総会後の取締役会で、内山は“非取締役”会長に就任。株主ガバナンスを徹底的に無視した逃亡と居座り劇を許したのは、他ならぬ社外取締役だった。傍若無人に会社を支配して見せる創業家に対して、オアシスはフジテックの社外6人の解任とオアシス側の社外候補6人の選任を臨時株主総会で提案した(下表参照)。
2023年2月24日に開かれた臨時株主総会では、フジテックの社外取締役3人が解任され、オアシス側提案の社外取締役候補4人が選任された。フジテックの取締役会は、代表権を持つ社長の岡田隆夫、同じく専務の浅野隆史、財務本部長の土畑雅志の社内取締役3人に加え、ギリギリで解任を逃れた遠藤邦夫、三品和広、そしてオアシス側の海野薫、嶋田亜子、トーステン・ゲスナー、クラーク・グラニンジャーの9人となった(いずれも当時)。
社長の岡田ら3人のプロパーは内山に引き上げられた忠実な部下たち。結果、取締役会の勢力はフジテック5人に対し、オアシス側4人で、オアシスは依然として劣勢だった。しかし、内山の創業家支配がすでに理屈に合わないと考えていた社外取締役は、「コーポレートガバナンスに関する考え方がフジテックとは大きく異なる」と言い残して去っていった引頭だけではなかったのだ。
オアシスがプロパー社長に命じた「内山会長解任」
オアシスCIO(最高投資責任者)のセス・フィッシャーからフジテック社長(当時)の岡田に宛てたメールが届いたのは、2023年3月7日のこと。〈フジテックは内山高一氏と一切の関係を絶つこと〉と示された文面は、さらにこう続いた。
〈フジテックは、定款に定めのない、内山高一氏の「会長」職を解任し、同氏のフジテックにおける一切の役割を廃止しなさい。フジテックは、内山氏との顧問契約、報酬契約、および雇用契約の全てを停止し、社用車および秘書を含むあらゆる便宜供与を中止しなさい。内山氏は今後フジテックのオフィスへの出入りを行わず、社用車は使用せず、会社の非公開情報へのアクセスは遮断される必要があります〉
一片の妥協もない“内山完全追放令”だった。
内山は、この日からわずか3週間後の3月28日に会長職を解任される。しかも、取締役会は解任議案を“全会一致”で可決したのだった。
フジテックを追放された内山は怒りを隠さなかった。
「解任されたら『即出ていけ』と言われた。社長となって20年間、会社のために尽くしてきた私に、よくぞこんなことが出来たものだ」
取締役会が、オアシス一色に染め上げられたのはなぜなのか。それを窺い知れるのは、やはり、社長の岡田に宛てたオアシスのメールの内容だった。
内山追放を命じた文面は、さらにこう続く。
〈女性の独立社外取締役を取締役会議長に指名し、日本のコーポレート・ガバナンス(文面ママ)を大きく前進させるべきです。(中略)オアシスは、海野氏が取締役会議長に最も適任と信じています〉
〈株主からの信認の割合が高かった海野氏、トーステン氏、三品氏の3名が(指名委員会に)選出されるべきだと考えます〉
これらの要求が通らなかった場合は、〈(岡田社長らの)解任に向けた株主提案〉や〈会計帳簿等の閲覧謄写請求の行使〉、そして〈留任した取締役への株主代表訴訟の提起〉という“脅し”が添えられたが、それだけではない。社外取締役への懐柔策もすでに用意されていた。
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