フジテック#4 前会長のオアシスへの反撃と限界【株主総会2023】
オアシスに対抗した内山前会長の‟情報戦
(#3から続く)フジテック前会長の内山高一の資産管理会社、ウチヤマ・インターナショナルは、元日興コーディアル証券取締役会長の木村一義(ビックカメラ元社長)や元野村証券専務の津田晃、元財務官僚でIMF(国際通貨基金)日本政府代表理事を務めた小手川大助ら8名の取締役選任を求めるものなど、9議案を提案した。内山自身は候補者とはならなかった。6月2日、内山は、弁護士の河合弘之や取締役候補たちとともに日本外国特派員協会で会見した。
内山は言う。
「私はフジテックの社長を長く務めました。これまで数多くの国内外の投資ファンドと対話してきたが、みなさまにグッドジョブ、グッドカンパニーと言われたことはたくさんあった。しかし、オアシスはフジテックの長期ビジネスモデルとは正反対の短期、しかも株式取得と売り抜けによる譲渡益を目指している。
オアシスは、私が社員を使って庭仕事をさせているとか、息子の学費を会社に払わせたなど、私の家族のプライベートの一部を捏造し、全くの偽りの情報を流しております。この点については、すでに損害賠償訴訟を提起した」
配布された株主提案のプレゼンテーション資料「フジテック株式会社の強く持続的な企業価値向上のために」(アイキャッチ画像参照)には、〈オアシスが、長期持続的な企業価値創造を目的とする、日本のコーポレートガバナンス改革の旗手のように、振る舞っている現状には、強い問題意識を持ってい〉るとして、こう書かれていた。
〈オアシスがアクティビズム戦略を活用している投資案件には、長期的な株主価値創造を犠牲として短期的なリターンの獲得を成立させているものが目立ちます。(中略)デリバティブによる議決権の水増しや、空売り、ネガティブキャンペーンによる印象操作などをアクティビズムと組み合わせた投資戦略は真の企業価値創造につながらずアクティビスト以外の全ステークホルダーにとってマイナスにはたらくと考えます〉
資料には、オアシスがアクティビストとして関与したプラスチック製品メーカーの天馬(東京)、富裕層向け不動産のレーサム(東京)、通信機器のサン電子(愛知)の株価や収益性が低迷していると指摘したうえで、〈フジテックの財務・株価パフォーマンスにアクティビストによる改革が必要なほどの大きな問題があったか? そのように見えない〉と批判したのだった。
特設サイトで追及されたオアシスの疑惑
株主提案の候補者のひとりで元ボストンコンサルティング・グループの沖本普紀は、オアシス・マネジメントCIO(最高投資責任者)のセス・フィッシャーがフジテック社長の岡田隆夫(当時、2023年6月株主総会をもって退任)に宛てて送ったメールを引き合いに、こう批判してみせた。
「(2023年)2月以降、社外のボードメンバーが変わってからフジテックは、企業の本源的な価値である経営戦略を何も語っていない。役員の人事ばかりをいじくっている。オアシスは、取締役会に対して『内山高一氏の会長職を解任しなさい』というような非常に失礼な口調で命令をしています。これに今のボード(取締役)は、唯々諾々と従っている。大変な問題です」
持ち株比率17%に過ぎないオアシスが、取締役会を支配している――。約10%程度の持ち株比率の創業家支配を批判してきたオアシスの支配構造もまた、同種の矛盾を抱えるものだった。
旧日興証券出身の木村は、オアシスのキャンペーン手法について、こう語った。
「ファンドが関連当事者取引をスキャンダラスに突くことは、ファミリー企業に対して食い込もうとするときの常套手段。株主に疑惑を残す非常に巧妙な手法です。しかし、その内容をよく見ると、全てが推論に過ぎず、(内山が名誉棄損訴訟を提起しているように)ファクトではありません」
一方、当の木村は、こうしたアクティビストの手法に対して内山らの対応が「甘かった」とも語る。この反省に立った内山は、オアシスと同様に情報戦を展開した。「FREE FUJITEC」というサイトを立ち上げると、徹底的にオアシスのネガティブキャンペーンを張ったのだった。
オアシスが指摘した関連当事者取引の疑惑を否定するばかりか、内山の名誉棄損訴訟の訴状も掲載されたほか、オアシスに事業戦略がないと指摘する株主提案のプレゼンテーション資料は80ページにも及んだ。オアシスが過去の株主総会のたびに詳細なプレゼン資料を作成して創業家を攻撃したように、内山も微に入り細を穿つ資料で反撃した。

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