JAL“説明なき”社長解任「空港施設」にプライム上場の資格はあるか#2【株主総会2023】
空港施設の「東証プライム上場維持」は妥当か否か
JALは乗田氏の人事案について、今もって、賛成したか、反対したかを含めて「回答しない」という姿勢を崩していない。一方のANAは、「ガバナンス改革を乗田氏とともに進めた稲田氏が退き、ANAからもJALからも新たな人材が送り込まれているのだから、人心を一新するべきだと考えたのであって、JAL出身者が2人、ANA出身者が1名になってしまうからではない」(広報)としている。
乗田氏の再任への反対率は75.87%と一見すると、高水準のようだが、そもそもの議決権行使率自体が65.7%と、かなり低かった。計算してみると、反対票75.87%のうち、JAL、ANAの割合は64.0%に達したが、逆に言えば、残り11.87%が反対票を投じたことになる。議決権総数に対する割合は7.8%だ。
今回、JAL、ANA、そして日本政策投資銀行の上位3株主以外で行使された議決権割合は、議決権総数の9.8%でしかない。その9.8%のうち7.8%が乗田氏再任の反対に回ったという事実をどう考えるかは評価の分かれるところかもしれない。
いずれにしても、JALおよびANAの上位株主2社で議決権のほぼ半分(21.02%×2=42.04%、2023年3月末時点)を抑えていることに変わりはない。国交省による人事介入は明らかな法令違反であり、大株主、それも自身も東証プライム銘柄を代表する大手航空2強が、法令に違反した国交省に忖度しなければならないような会社では、ガバナンスが機能しないのは当然であり、そんな空港施設が東証プライム上場を維持していて良いのかという議論が出てくるのは当然のことだろう。公募増資も1995年12月の2部上場時以降途絶えており、上場を維持する必要性が乏しいという意見には一定程度合理性はある。
しかし上場廃止になれば、これほど公益性の高い会社でありながら、経営情報の開示義務はなくなり、公益法人化でもしない限り、ブラックボックス化してしまう。
株主総会の結果を受け、指名委の1人だった芝弁護士は監査役を辞任している。空港施設側によれば、「本人は乗田氏の再任否決への抗議とまでは明言していないが、総会の結果が辞任理由であることは間違いない」という。
こんなことも上場会社であればこそ世間の知るところとなるわけで、その意味で上場廃止は、さらなるコーポレートガバナンスの機能不全を惹起しかねない。東証プライムかは別としても、こんな会社こそ上場を維持し、世間の目に晒されることが、監督官庁の政治的支配という“昭和な力学”が働かないようにする、最大の抑止力になるのではないか――。なんとも皮肉だが、そのようにしか考えようがない。
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