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第3回【牛島信×八田進二#2】日本企業の改革に「モノ言う株主」の即効性

第3回#1から続くプロフェッショナル会計学が専門でガバナンス界の論客、八田進二・青山学院大学名誉教授が各界の注目人物とガバナンスをテーマに縦横無尽に語る大型対談連載。シリーズ第3回のゲストは、企業法務の領域で長年活躍する弁護士にして、小説家の顔も持つ弁護士・作家の牛島信氏。最終回の#2記事では、日本において、その機能に疑問符が付されている社外取締役の在り様について――。果たして、社外取締役は日本企業の在り方を変えることが出来るのか。

なぜ日本では「社外取締役」が機能しないのか

八田進二 やはり、今日、経営の監視役として期待されるのは社外取締役でしょうね。

牛島 信 私もそう思います。社外取締役が真に独立性を持って経営を監視していたら、PBR(株価純資産倍率)1倍以下の会社の社長が、自ら後継指名するなんてことは出来なくなるはずです。繰り返しになりますが、会社の利益と株価は企業価値の代理変数です。PBR1倍以下の会社の社長に、投資家が納得できる説明責任を全う出来るわけがない。そんな人に後継指名なんかさせてはいけないのです。

八田 ただ、社長自身、最大の使命と思っているのが、自分の後継者を指名することだと考えている方が殆どではないでしょうか。

牛島 もちろん例外はありますよ。日立製作所を生き返らせた川村隆さん(元社長・会長)を子会社から本社に呼び戻し、社長に据えたのは、2代前の社長で当時会長職にあった庄山悦彦さんです。庄山さんは4800億円もの赤字を出したトップでしたが、再生を託す人選は間違えなかった。でも、こういう人は極めて例外的です。

現実には社長が友だちのお歴々に電話して「今度、ウチの独立社外取締役のポストが空くからどう?」なんてことをやっている。それでは社長に都合がいい人ばかりになってしまう。経営の監視どころじゃありません。

牛島信弁護士(撮影=矢澤潤)

八田 本当に、日本では社外取締役がなかなか機能しませんね。何か不祥事があると、会見に頭を下げに出て来るのは社長であって、社外取締役が責任を全う出来なかったと言って出て来るということはまずありません。それどころか、「何も知らされていなかった」と言って怒ったり、「自分は関係ない」と言って実際に逃げてしまったり……。

牛島 日本の裁判制度が発展途上段階にあるという点が大きく影響しているように思います。「社外取締役には情報が上がらない」などというけれど、その社外取締役が積極的に会社の情報を取りに行っているのかどうか、甚だ疑問です。

八田 おそらく、ほとんどの社外取締役は、お客様扱いをされながら、会社から提供される限られた情報のみで納得しているのではないでしょうか。

牛島 不祥事が起きて、「社外取締役は何をしていたのか」と株主総会で質問しようとしても、指名してもらえなければ質問にすら立てない。だから、裁判所に訴えるわけですが、日本の裁判制度では、社外取締役が経営監視に必要な情報を得ていないことの責任を問えず、「知らなかった(から責任を負わない)」が通ってしまうのです。結果、社外取締役の「知っていなければいけない」に踏み込んだ追及が出来ません。だからこそ、メディア頼みになるのですが、私はメディアこそ社長の追及に示す関心の10分の1でも関心を示してほしいと強調しています。

八田 社外取締役の報酬についてはどうでしょうか?きちんと働いてもらうには、それなりの報酬を払うべき、という声がある一方で、報酬が高いとかえって独立性を失うもとになる、という声もあります。会社法の第一人者である早稲田大学名誉教授の上村達男先生は「社外取の報酬が高いと、その報酬にその人の生活がかかってしまう」と言います。つまり、高額な報酬によって独立性を維持できないと。だから、生活に影響がない程度、言い換えれば、社長を怒らせて社外取締役の職を失っても生活していくうえで困らない程度の水準に抑えておくべきだという考えです。

牛島 それはどうでしょうかね。報酬の多寡の問題というよりは、ディシプリン(規律)の問題、つまり、きちんと責任を全うしないと世論と法で裁かれるからこそ、本来やるべき仕事をするというのが人間じゃないでしょうか……。少なくとも、社外取締役の存在が性善説を前提にしているようではダメでしょう。場合によっては、社長のクビに鈴を付けるような情報を取りに行かなければならないわけですから、性悪説に立つのが大前提ですし、どうしたらそんな情報が取れるのかを考えられることも必要です。この類の情報はいわゆる「内部統制」では取れないでしょう。

八田進二・青山学院大学名誉教授

“真に独立”した社外取締役はどうしたら生まれるのか

八田 おっしゃるとおりです。内部統制は社長自身が握っているわけですから。残念ながら、日本の場合、社外取締役が本来期待されている役割を果たせるかどうかは、本人の矜持と覚悟だけが頼りというのが実態ですよね。日本には古来、監査役会制度という経営を監視する仕組みがありますが、先生はどう評価されていますか。

牛島 私個人としては、監査役会制度は実はけっこう評価しています。監査役会は4、5人位の少人数であるうえ、内部の人と外部の人とで構成されていますから、内部の人のお陰で社内のことがわかることも多い。たとえば、「さっきの役員会での社長の発言はどういう意味なのか」と、社外監査役が社内監査役に聞く。そうすると、背景にある事情とか、社長の発言の真意を解説してもらえる。こういった協業です。

しかし、この監査役という存在、取締役会こそが監視機関であるとする欧米諸国の人には全く理解されないんですよね。とはいえ、日本では欧米諸国の制度だと思われている指名委員会等設置会社でコーポレートガバナンスを達成することは現状では難しいとも思います。

八田 私もそれはそう思いますね。日本の指名委員会等設置会社は後継社長の指名に関与する指名委員会を社外取締役に任せる仕組み。端的に言うと、社長から後継社長の指名権を奪ってしまうわけですから、これは世の社長としては絶対に許容できないでしょう。だからなのか、制度誕生から20年が経とうというのに、導入企業はいまだ100社に満たない状況です。それでは、監査等委員会設置会社についてはいかがですか。

牛島 監査役会設置会社では海外投資家に説明がつかないから、消去法で監査等委員会設置会社という意味でなら、評価します。私は社長が候補を立て、場合によって独立した社外取締役と妥当性を議論し合い、“綱引き”することもあって良いと思うのです。そこで重要になるのは、もし社長が推薦する候補者を後継にするのであれば、社長が名実ともに社外取締役を納得させることです。

八田 そういう気骨ある社外取締役はどうすれば見つけられますか。

牛島 社長に社外取締役を選ばせたらダメで、まずは社外取締役は社外取締役に選ばせることだと思います。これを2、3代繰り返したら真に独立した社外取締役に入れ替わると思います。

八田 なるほど。ただ、それだと結構時間がかかりますね。

牛島 おっしゃる通りです。だからこそ、私は即効性がある施策として、アクティビスト(モノ言う株主)の力で機関投資家を動かすべきだと考えているのです。

アクティビストと機関投資家の“幸福な同棲”が日本を変える

牛島 経営者にとって機関投資家が無視できない存在であることは言うまでもありません。会社に雇用されていた者にとって、退職後の年金は非常に重要な生活の糧です。そして、その年金を運用している機関投資家は、株価に大きな影響力を持っています。近年のアクティビストは、かつてのような内部留保を全て吐き出せといった無茶な要求はしなくなっています。

八田 それは私も実感しています。

牛島 彼らは会社を徹底的に分析できるだけの資金力を持ち、その豊富な資金を投入して長期的利益の実現という観点に立脚したガバナンス改善などの具体的な提案を経営者に対して行っています。その提案内容はパッシブな機関投資家を含めた、多くの株主の賛同を得られるものに練り上げられていて、それらを公表したり、場合によっては業界事情に精通したビジネスパーソンを独立社外取締役として推薦したりもします。

八田 短期的な利益を追求するモノ言う株主ということで、嫌われていたアクティビストですが、最近のアクティビストは、持続可能で企業価値を高めるための施策を提言してきており、会社に対しても受け入れるべき提言等が盛られていますからね。

牛島 機関投資家側としては、アクティビストの提案内容が自らの利益に合致するとなったら、その提案に賛同せざるを得ません。近年は機関投資家自身が議決権行使内容の開示を、自らの背後にいる年金受給者という受益者から求められていますからね。私はこれを「アクティビストと機関投資家の幸福な同棲」と表現していて、この動きはアメリカから始まった動きですが、日本でもここ数年顕著になっています。

牛島信弁護士

八田 「アクティビストと機関投資家の幸福な同棲」は、適格性を欠く経営者をクビにするときだけでなく、優秀な経営者に衰えが見え始めた場合に引退を迫る場合にも機能しそうですね。どんなに優秀な人でも何年も経営トップをやっていたら綻びが出て来る。私は最長10年が限界で、概ね6~7年くらいで社長を退くというのが社会のコンセンサスのような気がしています。

牛島 私もそう思いますね。それは良い慣習だとおもっています。ただ、その際に解決しないといけないのは、やはり、報酬の問題じゃないでしょうか。

八田 おっしゃるとおりだと思いますね。社長を辞めても会長で残り、会長を辞めても相談役や最高顧問で居残る。見方を変えれば、その間の報酬も含めて“生涯賃金”としての帳尻を合わせているんですよね。

牛島 報酬もそうだし、完全に会社を去るとなったら車も部屋、秘書もいなくなるわけですからね。

八田 最後に牛島先生の今後の抱負をお聞かせください。次はどんなものを書きたいとお考えですか。

牛島 戦後の日本を題材にして、敗戦、GHQによる財閥解体、戦後復興、高度成長、石油ショック、プラザ合意、バブル、バブル崩壊という流れを辿ったうえで、これからの日本はどうなるのか、次の世代に向けてどういう解決策を提案できるのかといったものをテーマに書きたいと思っています。このままでは「失われた30年」どころか「失われた40年」になってしまいます。何とか次世代にツケを回さない解決策をと思っています。また先生のお知恵を拝借させてください。

八田 とんでもない(笑)。今日は大変刺激的なお話を伺うことが出来ました。ありがとうございました。

(了)

【ガバナンス熱血対談 第3回】牛島信×八田進二シリーズ記事

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