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【大手企業訴訟ウォッチ#1】カゴメvs.オリックス大型台風で引き裂かれて法廷闘争

私たち「Governance Q企業訴訟取材チーム」は普段、主に企業を舞台にした「経済事件」を中心に取材・執筆している記者集団です。経済事件は往々にして殺人事件などと違って“見えない事件”と言われることがありますが、そんな企業をめぐるトラブルが可視化される数少ない局面こそ、「裁判」に他なりません。つまり、経済事件を追う記者たちにとって、裁判は端的に言えば、“ネタの宝庫”というわけですが、本連載は企業が当事者となっている訴訟のうち、特に東京地方裁判所で争われる民事訴訟からピックアップして、客観的に解説するという企画となります。

《「企業間の訴訟」が4年で3割減、コロナだけじゃない“裁判沙汰”激減の理由》(ダイヤモンド・オンライン、2023年1月26日)――。今年初め、こんな記事が配信されました。同記事によると、〈企業はグローバルな取引の複雑化で、司直に公平な判断を委ねるケースが増えている〉。ところが、最新の「司法統計」によれば、民事・行政事件の訴訟は〈コロナ前の2019年の訴訟件数は152万件だったが、コロナ禍の2021年はさらに137万件まで減少した〉というのです。

新型コロナウイルスの感染拡大は、企業およびその従業員に巣籠もりを求め、結果、企業活動は“自粛”を強いられました。だから、ここ数年、訴訟件数が減るのも頷けます。一方、5月8日からはコロナの扱いが「第2類感染症」から「第5類」に引き下げられ、“普通の病気”として扱われるようになりました。では、企業をめぐる訴訟はどうなるのか。

上記のダイヤモンド記事では、とりわけ企業間において〈レピュテーションリスクを恐れ、訴訟外での解決が増加〉と、その減少理由を説明しています。確かに、近年、企業社会では良くも悪くも「コンプライアンス重視」が叫ばれ、とりわけ大手企業はどこも“炎上”を恐れ、自社のイメージが悪化するのを極度に嫌います。ということは、記事にある通り、今後、企業間訴訟は減り続けるのかもしれません。

しかし、近年勢いを増す一方のアクティビスト(モノ言う株主)の襲来は置くとしても、こと企業がトラブルを水面下で処理するのはご法度の時代。特に受けた損害が修復されない場合は、経営者は株主などから突き上げを喰らう可能性が大いにあるのです。そのため、企業は和解する可能性は残しつつも、まずは訴訟で白黒を付ける構えを見せなければならないというのも、一面の事実と言えます。

相次いだ有名人「言論バトル」の判決

前置きが長くなったが、4月に目立った企業が当事者の訴訟は以下の通り(企業以外の有名人訴訟も含む。【現状】は東京地裁・高裁で記者が確認した時のもの)。

【原告】個人M【被告】東海旅客鉄道(JR東海)【内容】中央線工事差止等【現状】弁論

【原告】津田大輔【被告】百田尚樹【内容】損害賠償【現状】判決

【原告】産経新聞社、門田隆将【被告】杉尾秀哉、小西洋之【内容】損害賠償控訴等【現状】判決

【原告】カゴメ【被告】オリックス【内容】損害賠償控訴【現状】弁論

【原告】デービット・アトキンソン【被告】三橋貴明、経営科学出版【内容】損害賠償【現状】判決

まず、ジャーナリストの津田氏vs.作家の百田氏の訴訟は、2019年に愛知県で開催された芸術祭、あいちトリエンナーレでの企画展「表現の自由展・その後」で芸術監督を務めた津田氏と、これを批判する百田氏のツイッターでのバトルに端を発したもの。

続く、杉尾・小西両氏はともに立憲民主党の国会議員。彼らが産経新聞を相手取った裁判は、同紙に掲載された森友学園に関するジャーナリスト、門田隆将氏の寄稿記事が名誉を棄損したという“左右”両軸の言論闘争だ。 

そして、アトキンソン氏の裁判。英国出身の同氏は米金融機関ゴールドマン・サックスの元マネージングディレクターで、現在は寺社仏閣や文化財の修復工事を手掛ける小西美術工藝社の社長を務めている。菅義偉元首相ら政界実力者との関係も深く、菅政権時代はアトキンソン氏が積極的な提言をしていたこともあって、わが国の観光行政に多大な影響力を持っているとされ、週刊誌などでも標的にされた。そんなアトキンソン氏に、独自の理論を展開する経済評論家の三橋氏が言論対決を挑み、訴訟にまで発展した。

そのいずれもが判決を迎え、津田氏は30万円、立民2議員は220万円、アトキンソン氏は154万円(三橋氏132万円、経営科学出版は三橋氏と連帯して22万円)と、原告側の勝訴となっている。逆に言えば、論戦を仕掛けた被告側が軒並み敗訴した格好だ。

カゴメとオリックス「合弁トマト菜園」が大型台風で壊滅

一方、企業訴訟ではJR東海を被告とした裁判があるが、これはリニア中央新幹線の差止訴訟。国が許しを与えた国家プロジェクトでは、反対派住民が「反対意見」を表明するために訴訟を起こすのがつきものだが、これはその一例と言える。

そして、今回注目すべきなのが「カゴメvs.オリックス」の大企業同士の訴訟である。ちなみに、同訴訟、新聞他の大手メディアでは報じられていないようだ。

そもそも事の発端は、カゴメとオリックスが2004年に和歌山県和歌山市で合弁会社を設立してスタートさせたトマト菜園。「大規模ハイテク菜園」との触れ込みだったものの、やっと債務超過を抜け出して採算が取れると見込んだ2018年9月、“非常に強い勢力”で近畿地方を襲った「台風21号」によって、菜園が壊滅した後処理をめぐって裁判沙汰になっているのだ。

トマト菜園の被害について、カゴメ側は「7対3」の出資比率に応じて、損害額の3割、約3億2000万円弱の負担をオリックスに求めたが、オリックス側は「カゴメの生鮮トマト事業に出資したに過ぎない」として、合弁会社の資本金9000万円のうち出資分の2700万円を上限とした支払い以外には応じられないと主張。

そして、訴訟が起こされたのは台風一過から約2年半も経った2021年3月。以降、司法の場で互いの主張をぶつけ合ったが、2022年9月に東京地裁が下した判決は、カゴメの訴えの棄却。納得がいかないカゴメが控訴し、さる2023年4月12日に弁論終結。裁判所から和解案が提示された模様だが、原審判決はカゴメの主張が完全に退けられたものだっただけに、カゴメにとってはなかなか呑めない和解案であろうと推察される。判決に至った場合の期日は6月21日。さて、どんな結果となろうか……。

ちなみに、カゴメは訴状で、オリックスが農業の規制緩和による“民活”が進められ、農業が将来魅力的な成長産業になるからということで、カゴメがこれまでトマト栽培を行った経験のない和歌山県での菜園開設に至ったと主張している。確かに、オリックスは規制緩和を追い風にビジネス展開を広げた代表的企業とされる。トマトのカゴメと、リース事業を核に多角化展開するオリックス――。本来なら違和感を覚える2社の事業体が成立した背景に、そんな伏線があったのであれば、頷ける。

企業間訴訟はレピュテーションリスクを受けて減少中と先に触れたが、ともに東証プライム上場企業。両社にとって、数億円の損害は多額とは言えないだろうが、被害発生から足掛け3年、折り合いが付かずに闘いを法廷の場に移した背景には両社のメンツがあったものと想像される。ただ、カゴメは昨今の原材料費の高騰で、2023年12月期の最終利益は前期比55%減の41億円を見込む。だから、カゴメにとっては3億円か、数千万円かの違いは大きいのかもしれない。

台風で吹き飛ばされたトマト会社とリース会社による異色の合弁事業。企業間訴訟の在り様を映す事例と言えば、言い過ぎか。

#2に続く

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