【大手企業訴訟ウォッチ#3】上野アメ横「二木の菓子」積年の相続訴訟がようやく終結
6月2日、1997年の神戸連続児童殺傷事件(いわゆる「酒鬼薔薇事件」)で次男を殺害された土師守さんが神戸市内で会見し、重大少年事件の記録が各地の裁判所で破棄されていた問題で、最高裁の担当者からの謝罪があったことを明かした。土師さんは「事件記録は遺族にとって被害者が生きたことの証」として、厳重な保存を訴えた。
刑事事件の記録は、確定後3~50年が保存期間で(判決文は最長100年)。一方、民事事件だと、概ね5年までが保存期間とされている。少年事件を含む重大な刑事事件は言うまでもないことだが、過去の民事事件も歴史的価値のあるものは“時代の記録”として貴重だ。むしろ、多くの一般人が巻き込まれる可能性が高いのは民事事件のほうである。
弁護士会では以前から「記録を救おう!」と、記録の保存を呼び掛ける運動を行っているが、筆者も仕事柄があって、訴訟記録の大切さが広く理解されることを願うばかりだ。
さて今回は、#2に引き続き5月半ばから6月初旬までの、企業絡みの事件を中心に注目に値する事件を取り上げる。
芸能界、NEC、東京電力……で続く“執念の訴訟”
・【原告】Hプロジェクト【被告】芸能人の人権を守る 日本エンターテイナーライツ協会【内容】損害賠償控訴【現状】弁論(高裁)
・【原告】個人O【被告】NEC(日本電気)とその役員【内容】損害賠償、慰謝料、差止など【現状】弁論、判決
・【原告】井戸川克隆(元福島県・双葉町町長)【被告】東京電力ホールディングス(東電HD)、国【内容】福島県被爆損害賠償【現状】弁論
・【原告】富士通ゼネラル【被告】公正取引委員会【内容】排除措置命令等取消控訴【現状】判決
まずは「Hプロジェクト」の“芸能界”案件から。
最近の芸能界でホットな話題と言えば、ジャニーズ事務所の“性加害”問題だ。2019年7月のジャニー喜多川氏の死去から4年弱が経った今年2023年3月、もともと芸能界において“公然の秘密”であった同氏の性加害問題を英国BBCが改めて取材、ドキュメンタリー番組にした。周知のとおり、放送から3カ月が経った今も騒ぎが続いている。一方、芸能界はAKB48の出現を契機に「会いに行けるアイドル」で業界の常識を刷新、誰でもアイドルになれる時代になり、「地下アイドル」や「ご当地アイドル」が雨後の筍のように現れている。
そこで「Hプロジェクト」の裁判だが、事の発端はHプロジェクトという愛媛県の農業法人がご当地「農業アイドル」をプロデュースしたこと。ところが、このアイドルユニットのメンバーOさんが2018年3月に自殺し、遺族とHプロジェクト側でパワハラの有無や労働環境の是非をめぐり訴訟に発展しているのだ。「アイドルの労働者性」が問われた珍しい事件として注目を集めていた。
今回の事件は、双方の間で複数の訴訟が持ち上がり、それぞれの裁判が終結する中、遺族側弁護士らが行った発言で事務所側が多大な損害を受けたとして、東京高裁で争っているものなのだ。ちなみに、遺族側代理人で、被告になっている「日本エンターテイナーライツ協会」は、イケメン弁護士として知られる佐藤大和氏が、芸能人の人権擁護を目的に組織した団体である。
続く、個人O氏とNECとその役員の複数訴訟については、原告のO氏の氏名をネット検索すると、おそらくはNECのエンジニアと思われる人物。今年2023年に入って勤め先のNECと役員らを立て続けに提訴した格好だ。複数の訴訟内容を見ると、人事評価を巡って際立った対立があったものと思われるが、別の裁判で個々の役員を立て続けに訴えているところに、ただならぬ意志を感じてしまう。
井戸川氏は福島県双葉町の元町長で、2011年3月11日の東京電力福島第1原発事故で被害を受けた地元自治体首長の1人。しかし、2012年に放射線廃棄物の中間貯蔵施設をめぐる福島県と地元8町村の会議を欠席すると、町議会と対立し、2013年に町長を辞任。以後、同年の衆院選や2014年の福島県知事選に出馬するも、いずれも落選。そんな原告の井戸川氏だが、自分自身の止まらない鼻血、脱毛、慢性的疲労感から被爆を訴えていたものだ。それにしても、東電は「3.11」以後、あらゆる訴訟の対象となり、原発企業としての事故対応は終わりなく続く。
そんな中、今回、コーポレートガバナンスという視点で取り上げたいのは、菓子の現金問屋「二木」(ニキ)創業家による泥沼の“近親裁判”である。概要は次ページのとおりだ。
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