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【大手企業訴訟ウォッチ#4】日本郵政vs.ソフトバンク「泥沼の光ファイバー訴訟」

株主総会が集中する6月。今年2023年の最集中日は6月29日(木)で、東京証券取引所のプライム、スタンダード、グロース市場に上場している企業の595社が株主総会を行う。最近の話題で言えば、アクティビスト(物言う株主)の株主提案が多いこと。過去最高の90社で、株主提案が行われているという。

一方、本連載シリーズの対象になっている東京地方裁判所の企業訴訟については、6月は企業の訴訟件数はかなり低調だったと言わざるを得ない。ただ、アクティビスト他による株主提案が増えれば、これを企業側がどう受け止めるかにもよるが、利害が対立、法的措置に移行するケースも増えるだろう。

例えば、すでに5月25日に定時株主総会は終えているが、米系投資ファンドのバリューアクト・キャピタルに井阪隆一社長ら4人の退任を求められていたセブン&アイ・ホールディングス(HD)では、株主提案は退けたものの、両者の経営を巡る意見のせめぎ合いの中、「そごう・西武」の売却については“安売り”だとして株主代表訴訟が発生している。

また、6月21日に株主総会があった東証プライム上場エレベーター大手のフジテックは、香港の投資ファンド、オアシス・マネジメントが創業家排除に乗り出して “お家騒動”が注目を集めていたが、やはり、その諍いの過程で、創業家出身の元会長、内山高一氏がオアシスを提訴している。

株主総会がシャンシャンで終わったとしても、一部の株主から反感を買って、決議の取り消しや無効を訴えられることがある。株主総会は開催して「終わり」ではなく、「始まり」になることもあるわけだ。

というわけで、#3に引き続き、6月後半までで目についた大企業関連の訴訟を取り上げたい。

進展しないスルガ銀行とmaneoマーケットの損害賠償

・【原告】個人M氏【被告】スルガ銀行【内容】損害賠償【現状】第一回弁論

・【原告】個人K氏【被告】maneoマーケット外【内容】損害賠償【現状】判決

・【原告】個人S氏【被告】ブックオフコーポレーション【内容】人形返還【現状】判決

・【原告】第一興商【被告】ぴあ【内容】求償権【現状】高裁

そもそも、大企業同士の“がっぷり四つ”といった訴訟があまり見当たらなかった6月後半。そんななかで、スルガ銀行に対して、上記の個人M氏のほかに同じく個人I氏による損害賠償請求訴訟があった。

スルガ銀行でかぼちゃの馬車事件が発生したのが2018年のこと。不動産会社のスマートデイズがサブリースで展開していたシェアハウス事業をめぐって、スルガ銀行は積極的に個人投資家を集め、不正融資を行っていた。

やがて実態が明らかになり、2018年10月には金融庁が業務改善命令を発する。弁護団が結成され、アパート・マンション被害者との個別交渉が始まったのが、2020年4月。以来、スルガ銀行相手の損害賠償訴訟が定期的に散見されるようになった。恐らくは、これら個人訴訟もその一環と見られる。だが、個人M氏の訴訟はまだ第一回の弁論。なかなか事態が進展していないことを表しているのか。

このような状況で、2023年5月18日にはスルガ銀行がクレジット大手、クレディセゾンと資本業務提携を結ぶと発表。これを受けて、スルガ銀行の不正融資の被害者でもあり、クレディセゾンの株主でもある男性が、クレディセゾン側に対しスルガ銀行株式を取得しないよう差し止めを求めて提訴、弁護団とともに6月15日に記者会見を行った。

「スルガ銀行不正融資被害弁護団」団長の河合弘之弁護士は、いまだ金融庁からの業務改善命令が解けていないコンプライアンス違反を抱えたスルガ銀行との提携は「奇異な感じがする」と語った。そして、クレディセゾンへの株式割当価格は488円。この日のスルガ銀行の株価は約510円だったが、事件の賠償や不正行為の蓄積などを考えると、スルガ銀行株の正当な評価額は、事件直後の300円程度が適切で、現在の株価は「幻の株価」だと主張。その幻の株価に近い評価額の割当と業務提携は不当なものだとした。スルガ銀行の迷走は新たな会社、プレイヤーも加わって、ますます混迷しそうだ。

このほか、ソーシャルレンディングのmaneo(マネオ)マーケットをめぐる損害賠償事件も複数散見された。maneoが進めたソシャレも、時代の徒花のように盛り上がっては急速に萎んだことは記憶に新しい。maneoでは巨額の配当が滞っているとされ、スルガ銀行案件と同様、こちらも問題の尾が引いているようだ。

なお、maneoについては、元社長の瀧本憲治氏が2021年6月に東京・日比谷公園で遺体で見つかるという事件が発生。一連の訴訟には、瀧本氏の相続財産管財人も被告に名前を連ねる裁判も起こされている。

8年を経ても結審しない日本郵政とソフトバンクの巨額訴…
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