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ブラジル「改正独禁法」解説《前編》現地弁護士が教える改正のポイント

リニエンシー申請者の保護

この法律の良い点のひとつは、リニエンシー申請者の保護が強化されたことである。近年、ブラジルではカルテル事件に関する過去の記録へのアクセスを求める傾向があり、リニエンシー申請者の間に不安を引き起こしてきている。特に、これらの記録文書が他国でカルテルの証拠として使用される恐れがあるためである。確かに、これまでブラジルは他国と比較して、特にカルテル補償訴訟に関する保護については、ある程度の脆弱性が指摘されてきた。

しかしこの法改正によって、リニエンシー申請者や取引停止協定の締結者は保護される。この法律は、発生した損害の全額を賠償することのみを要求しており、つまり損害の2倍を補償するルールの適用外となる。他の不正行為者と共同責任を負うことはない。もちろんリニエンシー申請者は、被害者の犠牲の上に利益を得たので、依然として責任があるが、より厳しく処罰されることはない。むしろ、処罰が実質的に減免されることは、リニエンシー申請の動機付けとなるだろう。

訴訟の円滑化

ブラジルの司法制度は動きが遅いという悪評がある。審理期間が長いため、ブラジルでは被告や債務者にとって多くの利点がある、というのが通説だ。しかし、特にカルテルの被害者にとっては、この状況が変わる兆しがある。この法改正により、カルテル被害者は訴訟手続き上、大きな利点を得ることになったからだ。

a)損害転嫁の推定と立証責任の転換に関する法改正

カルテル参加者(被告)により「カルテル被害者(原告)が第三者(例:消費者)に対して過剰請求した」という主張がされた場合について、海外の判例に倣い、被告が立証責任を負うこととされた。この法改正は、これまで「カルテルの被害を訴える原告自身が(さらに商流の下流にいる一般消費者に)過剰請求をしていなかったことを立証しなければならない」としていたブラジルの一部裁判所の見解を覆すものだ。この改正により、訴訟手続きは円滑に進むようになる。

b) 時効

時効の算出法も変更点のひとつである。法改正により、時効は違反の明白な事実を知った時点から5年で成立する。この改正で、違反の明白な事実は、行政手続きの最終判決が、日本の公正取引委員会にあたるブラジル経済擁護行政委員会 (Conselho Administrativo de Defesa Economica、以下CADE)によって公表された時点で判明する。すなわち、時効はこの時点に起算される。CADEでの調査や行政手続き中、時効期間は中断される。これら変更により、結果として、カルテル行為に及んだ事業者の時効の抗弁は弱まることになる。

c)救済措置におけるCADEの決定の重み

競争上の損害賠償に関わる事件では、裁判官は、CADEの決定を踏まえ、最終判決の影響を見越した仮決定を下し、証拠に基づいて救済を行う権限を持つ。これにより、繰り返しになるが、カルテルの被害者は法的手続き期間においても有利になる。

後編では、この改正法を踏まえた「コンプライアンス・プログラム」の重要性について、引き続き同弁護士の寄稿文(和訳)をお送りする。

(後編に続く)

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