【フランス内部通報者保護制度】現地弁護士が詳細解説《前編》
パトリック・ティエバール(Patrick Thiébart): 弁護士(フランス在住)
いまやコーポレートガバナンスが健全に機能する前提条件とも言える存在となった公益通報(内部通報)制度。大手企業を中心に制度の整備・拡充が進んでいるものの、2024年5月21日に放送されたNHKの報道番組「クローズアップ現代」(“守られない通報者“ 内部告発を社会の利益に)によると、通報者の3割が「通報をして後悔した」という。
このような内部通報者に対する報復行為を懸念する声は日本に限ったものではなく、アメリカでは、5億5000万ドル(約850億円)もの社会保障年金が不当に支払われていたことを告発し、命を危険に晒されるほどの報復行為を受け、職を追われた元公務員の例もある(https://carvergriffith.com/)。内部通報制度本来の目的通りに機能させるには、嫌がらせや降格、左遷、最悪の場合は解雇(退職への追い込み)といった報復行為から通報者を保護する必要があり、それは公益通報者保護法(2006年施行)でも定められている。
日本では2022年に公益通報者保護法が改正されたが、企業の運用面では障害も少なくなく、内部通報制度がなかなか有効に機能していない現実は、本誌「Governance Q」でもお伝えした通り(下記URL参照)。日本の社会全体としては、内部通報制度の確立は道半ばというのが実情だ。
【特集】今さら聞けない「内部通報」全解剖
https://cgq.jp/category/special/whistleblowing
それでは、海外における内部通報制度の状況はどのようになっているのか。今回は、フランス革命で近代を切り開いた「人権の故国」ともいうべき、フランスに焦点を当てて紹介したい。
そんなフランスには「サパンII法(Sapin II)」という法律がある。この法律は2016年に施行され、企業の透明性と不正行為の予防を目的としている。特に企業に対して腐敗防止プログラムの導入と内部通報者の保護を義務付けており、22年の改正により、その義務はさらに強化され、企業活動における法的および倫理的基準の向上が図られている。グローバル展開する日本企業にとって、サパンII法に基づく内部通報制度の導入や運用方法についての知識は非常に有益であろう。
この法律の名前は、フランス政府で労働相や財務・公会計相などの重要ポストを歴任したミシェル・サパン氏に由来する。サパン氏は、同じ法律事務所に所属する労働法・雇用法専門パートナー弁護士であるパトリック・ティエバール氏らとともに、2020年に日本企業向けにウェビナーを実施し、施行以来進化してきたサパンII法の枠組みについて解説した。
今回は、そのティエバール弁護士が、企業や個人が知っておくべき基礎知識をQ&A形式で解説する。題して「フランス内部通報者保護法の基本」。
前編では、内部通報者の定義や、通報者が法的保護を受けるための具体的条件、報告方法や報告先等について説明する。次ページからは、その寄稿文(英語)を翻訳したものである。
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