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安藤百福「素人だから飛躍できる」の巻【こんなとこにもガバナンス!#36】

栗下直也:コラムニスト
「こんなとこにもガバナンス!」とは(連載概要ページ)

「素人だから飛躍できる」
安藤百福(あんどう・ももふく、実業家)

1910~2007年。1933年に日本へ渡り、のちに妻の安藤姓に改名して帰化する。繊維業、製塩業、金融業などに携わった後、1948年に日清食品の母体となる中交総社を設立する。1958年に世界初の即席めん(インスタントラーメン)「チキンラーメン」を発売、爆発的ヒット商品になる。1971年には初のカップ入りインスタントラーメン「カップヌードル」を開発、日本のみならず世界の食文化に影響を与えた。

GHQに逮捕され、信組運営も失敗し47歳で無一文に

1957年、安藤百福は大阪府池田市内の借家の自宅の裏庭に小屋を建て、即席めんの研究を始めた。食品業の経験もなかったが、4時間しか眠らない生活を1年間続け、試行錯誤を重ね、生まれたのがチキンラーメンだ。

人生は七転八倒とはいいうが、安藤はこのころ、転び続けていた。戦前、戦中に繊維事業や不動産事業で成功したが、戦後はGHQに脱税の容疑で逮捕され、約2年も身柄を拘束される。釈放後には信用組合の運営に携わるが、倒産して、財産のほとんどを失う。このとき、47歳。平均寿命が60代半ばの時代だ。どう考えても上がり目はない。

だが、百福はへこたれない。ずっと以前から頭の中にあった即席めんの開発に乗り出す。終戦間もないころに、大阪の闇市でのラーメン屋台の行列を見て、「簡単に作れて安く家で食べられるラーメンをつくったら売れるはず」と温めていたアイデアを実行に移す。

確かに、そんなラーメンがあったら誰もが喜ぶ。だが、ニーズはあるかもしれないが、それを支える知識も技術も全くない。そもそもどこまで市場があるかもよくわからない。どう考えても無謀な挑戦だったが、百福の人生を支えたのはこの猪突猛進ぶりにある。

20世紀の食を変えたカップヌードルの誕生

最初に起業した繊維事業が戦況の悪化で立ち行かなくなると、戦争で石炭のニーズが高まると判断し、とりあえず山を丸ごと買収してしまった。戦争が激化して被災して家を失う人が増えると「簡易住宅がいるはずだ」と販売した。細かいことはきにせず、とりあえずやってみる。門外漢であることを気にせずに突き進み、最終的に国民食どころか世界食となるカップ―ヌードルを生み出してしまった。

もちろん、百福の成功の裏には圧倒的努力もあったが、それはとりあえず、跳んだ後の話だ。「とても真似できない」と思うかもしれないが、素人であることの強みは誰しもが持っていることを忘れてはいけない。

(毎週水曜日連載、#37に続く)

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