池田輝政「無駄なものに出費せず、人に使え」の巻【こんなとこにもガバナンス!#21】
栗下直也:コラムニスト
「こんなとこにもガバナンス!」とは(連載概要ページ)
「無駄なものに出費せず、人に使え」
池田輝政(いけだ・てるまさ、戦国末期・江戸初期の武将)1564~1613年。1580年、摂津花熊合戦で初陣の功をたてて尼崎城主、84年、父信輝、兄之助の討ち死にで家督を相続して大垣城主(岐阜)になる。豊臣秀吉の命で羽柴姓を称す。90年、三河吉田城主(愛知・豊橋)で15万2000石を領し侍従となる。94年、家康の次女督を継室に迎え、関ヶ原の戦いでは家康に味方し、その戦功で播磨・姫路52万石(兵庫)を領して池田氏に復す。「西国の将軍」とも呼ばれた。
無駄遣いはしない徹底的な倹約家
52万石の石高を誇り、姫路城の大改築をした大名と聞けば豪快な性格を想像するだろう。実際に姫路城の改修にとりかかる際には家臣たちが「近くに山があってよくない。別の場所に築城すべし」と大反対したのに対し、「城に籠城するなど小さいことを考えるな。戦は大地に打って出て勝利するものぞ」と切り捨てている。
ただ、豪快な性格ながらも日常生活は極めて質素だった。言葉を選ばなければドケチだった。
ある日、城内の居間にあった竹製の水筒が壊れ、水漏れするようになった。家臣が「今、世の中では水筒を銅でつくるのが流行っております。竹でつくる物より値は高くなりますが、一度つくればいつまでも壊れず、長い目で見れば倹約にもなりましょう」と進言した。
ところが、輝政は納得しない。「確かに、一度銅づくりにしておけば、後々のためになろう。ただ、今一時に多額の金を使ってしまうというのは、儂(わし)の考えではない。何事においても、時代につれて古いことを改めるというのは良くないことだ」と語った。
物を大事に使うと言えばそれまでだが、輝政は、家政に関わる奥向きや、食事に関する台所向きをはじめとして、家中がすべてにおいて質素で、52万石の大名ながら、暮らしぶりは2万~3万石の大名と変わらなかったという。
「カネは人に使う」輝政の徹底したガバナンスルール
あまりにも倹素であるため、長く仕えていた老臣たちは「近頃は世の中も静まってまいりましたので、殿も少しは普段の暮らし向きをお楽しみになっても良いのではございますまいか」と勧めた。すると輝政は、いかにも納得したように頷きながらこう答えた。
「儂は倹約の度が過ぎるかもしれぬ。されど、このようにせねば家来を多く召し抱えることができぬ。確かに世は静謐ではあるが、いつどのようなことが起こるとも限らぬ。そのような万が一の場合のために、今以上に欲しいのは有能な武士である。無益な出費をせずに、人を多く抱えることこそ、儂の楽しみなのじゃ」
輝政が信頼する側近に命じて諸国の武勇の士を探させ、金銀米穀を与えて家来にした侍は数百人規模だったという。大国を任せられた者は自らが槍を持って戦うことはできない。多くの立派な士を育て、国家を守護するほかない。そのためには己の娯楽を抑えるしかないと考えていた。
輝政のスカウト熱は度を越していて、晩年は控えるようになるが、彼が後世に名を残す大名なりえたのは合理主義では切り捨てられない、自分なりのガバナンスのルールがはっきりしていたからだろう。目的と自分の置かれている状況を考え、抑えるところは極限まで切詰め、使うところには使う。この発想がなければ世界遺産の姫路城を私たちが目にすることもなかったかもしれない。
(月・水・金連載、#22に続く)
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