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サムスン元会長イ・ゴンヒ「妻と子ども以外はすべて変えろ」の巻【こんなとこにもガバナンス!#13】

栗下直也:コラムニスト
「こんなとこにもガバナンス!」とは(連載概要ページ)

「妻と子ども以外はすべて変えろ」
イ・ゴンヒ(李健煕、韓国の経営者)

1942~2020年。韓国最大財閥のサムスンの元会長。サムスングループを創業したイ・ビョンチョル(李秉喆)の三男。1987年に会長に就任して半導体やディスプレイなどデジタル事業で世界をリードした。実質的に経営を握っていた27年間で売上高を25倍に拡大し、時価総額で世界トップ10企業に育て上げた。2020年、78歳で死去。

三洋電機の下請け、日本留学……日本と縁の深かった韓国最大財閥

サムスンの電化製品といえば、一昔前は「安かろう、悪かろう」のイメージだったかもしれないが、今や世界のスタンダードになっている。テレビやスマーフォンの出荷台数は世界1位で、グループの中核のサムスン電子の売上高は30兆円近い。これはトヨタ自動車の2倍以上の規模で、売上高ではアジア最大の企業になっている。

サムスングループは精米事業で1930年代に創業されるが、稼ぎ頭のエレクトロニクス事業を始めたのは60年代。日本の三洋電機の製品を下請けで代わりにつくって、技術を学んだ。

日本とは縁が深い。創業者のイ・ビョンチョル、2代目のイ・ゴンヒ、現在のグループトップのイ・ジェヨン、3人とも日本に留学している。企業文化も90年代までは年功序列の長期雇用の日本型経営をモデルにしていた。イ・ゴンヒも「日本人の勤勉性を学べ」と言っていたほどだが、そのスタイルを90年代末に大きく変えることになる。冒頭の言葉はその時のものだ。

アジア通貨危機を経て「世界1位」を築いたイ・ゴンヒ

企業が従来の方法を大きく変えるのは環境が激変した時である。

サムスンにとってそれは90年代末のアジア通貨危機だった。韓国のウォンが大暴落して、政府は最終的にIMF(国際通貨基金)に支援を要請する。IMFは支援の代わりに条件を突きつけた。政府による極端な産業保護の廃止、公務員の削減、そして財閥のスリム化だ。サムスンもグループ会社を大きく減らして、マネジメントを変えた。経営モデルを欧米型にして、国内経済が壊滅的なので、海外市場に目を向けた。まさに、妻と子ども以外をすべて変えたのだ。

ただ、いきなり海外で大成功を収めたわけではない。日本市場やアメリカ市場には当時の製品力では入っていけない。最初はブラジル、ロシア、インド、中国のBRICs を中心に低価格製品を投入した。このことで世界戦略の足場を結果的に固めた。

韓国は人口が日本の半分、約5000万人に過ぎない。90年代の時点で国内市場だけでは先細りするので、海外に出ざるを得ないのは当時も認識していたはずだが、未曽有の経済危機が大変革を前倒ししたのである。

(月・水・金連載、#14に続く)

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