日大の林真理子理事長に「ガバナンス力」を期待するのは酷である【ガバナンス時評#6】

日大の「体育会権力」に切り込めなかった林理事長
(#5から続く)またしても……である。日本大学で不祥事が後を絶たない。アメリカンフットボール部員の薬物問題がさらなる広がりを見せる中、林真理子理事長が沢田康広副学長の解任を提案する事態に陥っている。またしても大学当局が迷走しているわけだが、沢田氏の独断もさることながら、そもそも林氏は理事長に能う人材だったのか――。学校経営に精通する八田進二教授が、日大問題の核心を斬る。
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日大アメフト部所属の学生が寮内で大麻を隠し持っていた問題で、理事長の林真理子氏が10月24日の臨時理事会で、沢田康広副学長の解任を提案していたことが報じられている。
日大の体育会の担当として、沢田氏は7月6日にアメフト部の寮で部員の持ち物検査などを実施した際に植物片などを発見、しかし警察に届け出ることなく大学で保管し、警察には7月18日まで伝えなかったという。「空白の12日間」と言われる所以だが、沢田副学長は元検事という経歴から、「自分ならうまく処理できる」という驕りがあったのだろう。
沢田副学長は8月8日の記者会見で、「大麻だったのであれば、学生に自首させたいと考えた」と語り、 隠蔽の意図を否定していた。だが、所持が発覚した時点で犯罪であることが明確であるにもかかわらず、「教育機関」であることを理由に警察に届け出なかったとした。
ともすれば、副学長自身が大麻所持の罪に問われてもおかしくないのである。また、「学生に自首させたかった」などと、あたかも教育的立場から学生のことを第一に考えているかのように振る舞ったというのも度し難い。ガバナンス以前の問題で、沢田副学長の本音は、学生に寄り添ったテイを取った“保身”と受け止められても仕方ないからだ。
林真理子学長体制において、副学長としてコンプライアンスを取り仕切り、特に体育会について責任を負う立場として、足元で起きた大麻事件が発覚すれば、自分の立場が危ういと考えたと思われる。その時点で「教育者」として失格ではないだろうか。
本来的な意味での教育機関であればこそ、ダメなものはダメ、犯罪は犯罪だと説く必要がある。もちろん、人間誰しも、ふと心の弱さが出ることは否定しない。しかし、そうであればこそ、学生に対しては、いち早く罪を償い、立ち直ることを説かなければならない。学生はすでに成人年齢に達しており、立派な社会人なのである。
沢田副学長は林理事長からの辞任要請を拒絶し、メディアに対して「手続きも経ずに第三者委員会の結論が出る前に辞任させようとしたことが納得できない」とコメントしていた。それが10月24日に至って、林理事長から解任提案を突き付けられたわけが、沢田氏本人は時事通信の取材に「悲しい気持ち」と答えている。まさに泥仕合の様相というほかない。
もっとも、林理事長の責任も重い。作家の林氏が、門外漢である大学教育の現場、それも不祥事続きの日大において、わずか1年半程度で何かができるとは誰も思っていない。「あえて火中の栗を拾って母校のために理事長を引き受けたのだから、もう少し時間をあげてもいいのではないか」との声もあるようだが、彼女一人で伏魔殿のような日大の膿を出し切ることは不可能だろう。
日大の不祥事は大麻所持に限らない。アメフト部は監督の指導により学生が相手チームの選手に危険タックルを行って怪我をさせた問題も起こしている。相撲部はOBの田中英寿前理事長によるゼネコン不祥事を起こすなど、日大の醜聞は、元をたどれば体育会が震源地となっている。
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