企業も「ジャニーズのふり見て我がふり直せ」【ガバナンス時評#5】
日本型組織の弱点「外圧と訴訟」
(#4から続く)遅くとも1990年代には指摘されていたジャニーズ事務所創業者のジャニー喜多川氏による、所属タレントの少年たちに対する性加害問題。今年2023年になってこれほど大きな問題になったのは、イギリスのBBCがこの問題を取り上げたこと、さらにはそれを受けて国連がこの問題に言及したことに由来する。つまり、「外圧」である。
大企業を含めて、日本の組織は往々にして、「外圧」か「訴訟」(特に刑事訴訟)でなければ変わらない、と見てきたが、今回も同様であった。
国際社会は人権重視の流れに急速に傾いており、ビジネスも例外ではない。最終的に消費者がサービスやモノを受け取る川下から、製造工程を川上まで遡り、すべてのプロセスにおいて人権が重視されているかどうかが問われる時代になっているのだ。
たとえばイギリスでは、2015年代に「現代奴隷法」が制定され、サプライチェーン上のすべての製品の原材料の生産現場にまで遡って、奴隷労働や搾取が行われていないか、厳しくチェックしている。海外の事例に至るまで調べ上げて問題があれば域外適用をする、と定めているのだ。国際的な活動を行う企業はすべての過程でこの法律をクリアしているか、毎年ディスクローズしなければならない。オーストラリアもこれに続き、2018年に同様の現代奴隷法を制定している。
ジャニーズ性加害問題に国連人権理事会が調査に乗り出したのも、こうした流れを受けてのことだ。人権とビジネスの在り様は今や世界の潮流であり、だからこそ、人権に反する性加害問題が指摘されながら、長年放置され、多くの少年たちが被害を受けたと見られるジャニーズ事務所の問題にBBCが関心を持ち、報道を受けて国連が調査に乗り出したのであろう。
ジャニーズ事務所が創業者であるジャニー喜多川氏の性加害を認めたのも、BBC、国連という外圧によって外堀が埋まっていたことが大きく影響しているに違いない。その前の「外部専門家による再発防止特別チーム」も踏み込んだ調査結果を出さざるを得ない状況にあったのだ。
番組スポンサーや所属タレントをCMに起用してきた日本の各企業は、ジャニーズ事務所との契約についての態度を表明しているが、性加害を受けたとする元所属タレントの告発があってすぐに、契約打ち切り等を決めたわけではない。9月7日の事務所の記者会見を受けて、「契約打ち切り」「契約更新せず」「新規契約なし」などの姿勢を打ち出した。
これについては概ね、日本社会から評価する声も上がっているが、各企業の対応とは、若干違った見方もあることを紹介したい。
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