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2024年は「既存の価値観」を転換すべき年である【ガバナンス時評#13】

ネガティブ情報こそ企業はオープンにすべき

「アクティビスト」の変質と株主総会

アクティビスト(物言う株主)が存在感を増してきている。2023年は、アクティビストの企業に対する提案が投資家に受け入れられる場面が相次いで見られた。

かつては「物言う株主」と言えば、配当などによる株主還元を強く求め、往々にして自らと既存の株主だけが得をするような短期的利益を求めるだけの提案も少なくなかった。その主張によっては、企業の中長期的な継続性を顧みない“強欲な株主”と見られていたと言える。

ところが、昨今はアクティビストの株主提案でも、サステナブル(持続可能)な事業経営に資するものも増えてきている。スチュワードシップ・コードの遵守が求められている機関投資家も、こうした変化を敏感に察知しているからこそ、アクティビストの提案内容が受け入れられる傾向が増えてきたのだろう。

さらにさかのぼれば、株主総会は株式会社の最高意思決定機関といっても、特に高度成長期は、単に株主が経営陣を信任するだけといった「シャンシャン総会」が通例だった。逆に、総会屋に株主総会を荒らされる経営者は“無能”の烙印を押され、利益を供与してでも、総会を無風にすることが求められた。

そうした時代と比べれば、経営陣も、のほほんと株主総会を乗り切ることは許されなくなっている。また、東証もPBR(株価純資産倍率)などを指標として、資本コストの向上施策、少なくとも、資本コストについての自社の考えを開示することを上場企業に促すようになったが、市場がこのような動きに出ることは今までなかったことだ。

情報がオープンになることで、企業にもプラスの影響が生じている。総会屋のような反社会的勢力による脅しに屈することはもちろん、政策保有株(株式持ち合い)を通じた慣れ合いの経営が許されなくなりつつある。つまり、経営陣は自らの経営施策について、十分な説明責任を果たせるかが問われるようになっているのだ。透明性が高まっているわけだが、その分、経営陣は本当の意味での真剣勝負の経営が求められようになった、と言えるだろう。

ネガティブ情報、リスク情報の開示こそ最優先すべき

ただし、情報開示については若干の後退もある。日本では上場企業が国に提出する「四半期報告書」が2024年4月から廃止となる。一応、決算短信は出されるようだが、その時々の会社の業績がこれまでよりも見えにくくなることは否めない。その一方で、上場企業はその分、然るべき時に然るべき情報を発信するタイムリーディスクロージャーが求められることになると言えよう。

とはいえ、ガバナンスと同様、情報発信に関しても企業側の勘違いはいまだ存在している。例えばESGという言葉が近年、よく聞かれるようになった。ESGとはEnvironment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)の頭文字を取ったもので、これらに資する投資や事業活動を行うべきとするものだ。もっとも、各企業もESG情報は頻繁に広報している。しかし、そのほとんどがポジティブ情報だけの開示、言い換えれば、“広告色”の強い情報発信になってはいないか。

そもそも、情報開示とは、企業にとって都合のいい情報だけを出せばそれでいい、というものではない。ステークホルダーにとって本来、最も必要なのはネガティブ情報であり、リスク情報だからだ。

「リスク」というのは本来、将来の不確実性を指す言葉である。そのため、リスクにもポジティブリスクとネガティブリスクが存在する。しかし、社会にとって必要なのは、「その会社の株を買うことで損失が出る」「製品を使うことで問題が生じる可能性がある」というネガティブ情報であり、それを開示したうえで投資家、消費者に意思決定をさせなければならない。

もちろん、大株主や債権者が企業の足を引っ張るケースもある。資本の論理から言えば、こうした大株主の声を無視するわけにはいかないものの、その声はあくまでも公益性や公共性、社会的使命に資する方向に向くべきで、新しい時代に合ったガバナンス改革を後退させるような株主行動は許されない時代になってきていると考えるべきだろう。

企業が「昭和」の体質を脱却するために 一方で、…
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