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【大手企業訴訟ウォッチ#6】富士急、M資金、パチスロ王…創業家を巻き込む訴訟劇

6年間続いた県有地を巡る山梨県との訴訟で「富士急」が勝訴

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山梨県を原告とする訴訟は、地元の富士急行が山梨県から借りている県有地の賃貸借契約について、争ったもの。富士山麓の当該県有地で富士急はリゾートを展開しているのだが、県と富士急で結ばれた契約はかなり以前のもので、現在からすれば、破格の安値で富士急に貸し出されていた。これを問題視した山梨県内に住む男性が2017年、住民訴訟で山梨県を提訴。富士急に損害賠償をするよう県に求めたのが騒動の発端だった。

当初は住民男性側と争っていた山梨県だったが、2019年に現在の長崎幸太郎知事が就任すると、立場を一転させる。2020年に男性側の主張を受け入れて、山梨県が富士急側に対して賃料の改訂を要求。結果、富士急が契約の有効性を訴えて山梨県を提訴する事態に発展していった。

1審の甲府地裁では富士急の主張が認められたものの、山梨県が控訴しており、今回、その控訴審判決が下り、1審に引き続き、富士急の主張が認められた。そのうえ、山梨県は控訴を断念。長崎知事は司法の判断を尊重し、「最終的に受け入れることとした」とのコメントを出して、ようやくの終局を見た。

ところで、この争い、長崎知事が誕生した2019年に動き始めた「富士山登山鉄道構想」敷設の是非を巡っての“代理戦争”というのがもっぱらの受け止め。富士急創業家で堀内家は、旧通産大臣などを歴任した自民党・宏池会の重鎮、堀内光雄・元衆議院議員(2016年死去)を輩出した地元政界きっての名家。現在は、光雄氏の嫡男で富士急社長を務める光一郎氏の妻、堀内詔子・元ワクチン接種推進担当大臣が地盤を引き継いでいるのだが、長崎知事とは政敵とされ、今回の訴訟の背景にもそれが影響していると見られている。

続く、外食グループのコロワイドと金取引のアジアコインオークションの2件の訴訟は、いずれも「M資金」、もしくは、ありもしない「リクルート株購入話」を持ちかける“M資金話まがい”の話をめぐるもの。M資金とは、日本占領下の接収資産などを元にした秘密資金とされ、実在性は疑われるものの、現在まで“詐欺話”と流布、多くの要人が騙されてきた。また、長く非上場だったリクルート株についても、未公開株の入手を騙った詐欺が断続的に発生したことで知られる(リクルートは2014年に上場)。

コロワイドは実質的な創業者である会長の蔵人金男氏が被害届を提出し、2020年、犯人グループは逮捕されている。本件訴訟は、その件を扱ったダイヤモンド社の記事の妥当性を争ったもの。一方、アジアコインオークションの件は、訴訟では当事者として登場しないが、旅行会社のエイチ・アイ・エス(HIS)の創業者で、現在は取締役最高顧問である澤田秀雄氏が、リクルート株購入話に絡んで、50億円を騙し取られていたとされるもので、訴訟自体は2018年から争われており、佳境に近づいていると見られる。

続く、岡田和生氏の離婚訴訟だが、岡田氏はパチンコ・パチスロメーカーのユニバーサルエンターテインメント(旧アルゼ)の創業社長だった人物。しかし、岡田家内の争いから、今ではユニバーサルの大株主である資産管理会社の支配を喪失したことで、ユニバーサルの株主総会への参加すら拒否されている状況だ。

“カリスマ”か否かは別として、大手企業の創業者たちを巻き込んだ裁判が目についた今回の訴訟ウォッチ。“カリスマ企業”におけるガバナンスの不確定要素は、経営者そのものであることはよく指摘されるところだが、本業とはかけ離れた領域での訴訟が、社員たちの士気を低下させないか、大いに懸念される。

#7に続く

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