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【内部通報特集#3】「公益通報対応業務従事者」重くなる“責任”と高まらない“技量”

内部通報後に待ち受ける“民事裁判”という高いハードル

そのうえで、日野教授は通報者側の不安と企業側が醸成すべき安心感について、こう語る。

「通報してから自分が社内でどういう立ち位置になるのか。端的に言うと、企業側から不利益な取り扱い、あるいは“報復”が来るんじゃないか、そういった心理的な圧迫を受けてしまうと、通報者が通報しにくいことは自明の理です。各企業にそれぞれの企業風土がありますが、通報した後、通報者自身、どうなるんだろうという不安が先走っている印象です。通報窓口の公益通報対応業務従事者には守秘義務が課されていますが、課されたからといって、労働者等の通報意欲は高まっていないと言えます。

組織として自浄作用を向上させるため、『社会(会社)をよくするための制度』である、通報内容が間違いであったとしてもあらゆる通報には不利益を及ぼさない、といった安心感を労働者等に与えないと、公益通報者保護制度や内部通報制度は“絵に描いた餅”になるおそれがあると考えます。通報者に対し、心理的にも安全であるという安心感を与えることが最も重要です。意見が自由に出せる職場環境かどうか、みなが気兼ねなく意見を述べることが出来ること、また、自分らしく職場に居続けられることが求められているのであり、公益通報者保護制度や内部通報制度の存在価値が問われていると言えます」

確かに制度自体は立派だが、法律自体の限界もある。日野教授が続ける。

「改正された公益通報者保護法によって制度としては整備されつつあるものの、実効性、特に法的保護を受ける場合は、今なおハードルがまだ高いと言えます。結局、裁判手続き、つまり、所属する企業と争うことを前提としたスキームになっており、立証責任の問題はもちろんですが、最終的に名前を明かして出訴(提訴)せざるを得ないといったところも、通報意欲の減退につながる要因ではないかと考えています。

公益通報者保護法は、公益通報者を保護すると法律名で示しているものの、法的保護を求めて通報者が争う際には、民事裁判手続きで決着をつけざるを得ません。この点だけを見ても、ユーザー目線にはなっておらず、今後の大きな課題であると認識しています。通報後(出訴後)、通報者(原告)はどのような人生を歩んでいるのか、切実な問題です。法制度として、また社会として、『公益』のために通報した者を確実に保護することが求められていると考えます。

組織としても、多様な意見に耳を傾ける、真摯に聞くという姿勢が求められます。対立ではなく、『相手を信じて聴く』という意味での対話が内部通報の対応方法として重要です。法令違反のある職場は労働環境としては不適切であり、不健康な状態であると言える。“誰が”通報したかを重視するのではなく、“何を”通報したか、この“何を”にフォーカスし、不正・違法な行為を除去すべきと考えます。そういった意味ではコミュニケーション・ツールとしての活用はもちろんですが、早めに不正・違法な行為を消火できるといったリスクヘッジという意味においても、内部通報制度は企業にとって重要な役割を担っているのです」

公益通報者保護法改正法によって通報者に対する不利益な取り扱いが禁止されたとはいえ、結局は民事裁判にまで発展する可能性を考えれば、通報者が超えなければならない心理的ハードルは依然として高いままだと言えそうだ。

内部告発を“支援”する専門会社も登場……通報のレベル…
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