【スタートアップ「ガバナンスの乱」】硬骨の社外取締役を排除した創業社長#2
(#1から続く)社員からの期待を背負った新しい経営体制がスタートするはずだった。しかし、その期待はすぐに裏切られることになる。
「私は代表取締役として、会社を統括することが求められている」
新体制のスタート直後、社長から社員に向けてこんな声明が発せられたのだ。いや、待て。業務執行、つまり現場の運営は副社長に任せるという話だったはず……大半の社員が違和感を覚える内容だった。
実は、現場を副社長に任せると決定する前から「副社長に騙されているのでは……」と社長が感じ始めていた。そもそも、「任せる」気なんかなかったのである。自尊心と猜疑心が高くて他責思考、反省がないので、また繰り返す――社員の一致した社長像。現実はそう簡単に変わらない。
全社員が参加する事業方針説明会の舞台裏では、社長が副社長に「会社が組織的にもビジネス的にも、危機的な状況であることを、なぜ社員に伝えないのか。これは君の責任だぞ」と詰め寄る場面があった。信頼して現場を任せるはずの副社長が、次の”トカゲの尻尾”になったのだ。
創業社長の意のままに動く非常勤監査役
「創業者は私。私の会社だ。副社長の思い通りにはさせない」
現場に復帰するための“ストーリー”が必要だ――。動きは迅速かつ大胆だった。社長は、付き合いの長い非常勤監査役に相談を持ち掛けた。
「現場に復帰するためのストーリーが必要だ。私を支持してくれるメンバーからの意見を吸い上げてほしい」
すぐさま、創業間もない時期に入社した数名から非常勤監査役に対し、面談の申し入れがあった。成長性のあるスタートアップには、創業間もない時期に入社した古参社員がいる一方、その後、会社の成長に伴って優秀な社員が入社する。そのため、中心メンバーから外され、燻ってしまう古参が一定数いるものだ。創業社長は、そこに目を付けたのだ。
「社長のアントレプレナーシップは卓越しており、社長のビジョンは会社のビジョンでもあり共感している」「社長が望む限り、現場から離れて欲しくない」……古参社員たちは口々に、そんな現実とはかけ離れた意見を非常勤監査役に訴え出た。
そんな“社内の世論”を受けてその監査役は、他の監査役や取締役に対し、「社長のリーダーシップと円滑な組織内コミュニケーションにより、役職員が一致団結することが必要」と報告したという。本来、監査役は株主総会で選任され、取締役の職務の執行を監査することが責務である。いくら旧知の社長からの要望とはいえ、その横車に押されていては、ガバナンスなど土台機能するはずもない。
社内の重要会議についても、社長は手を打ってきた。
「社長が副社長に出席を要請し承認が得られた時、従業員からの会議への出席要請があった時には、社長はその会議に出席することができる」「経営や社員の状況について、社長に十分理解が得られるよう、副社長から社長に積極的にコミュニケーションを図らなければならない」
すべての主語は自分(社長)だった。そもそも、なぜ経営体制を変更しないといけなくなったのか……元の木阿弥でしかない。副社長は”副社長の役割”をしっかりやってくれ、やれないなら、私が現場復帰する――。社長からの言外のメッセージであった。
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