検索
主なテーマ一覧

【スタートアップ「ガバナンスの乱」】頓珍漢なベンチャーキャピタリスト#3

#2から続く創業社長は、株主総会の時期が近くなるにつれ、取締役会における数的優位を確保するための布陣を着実に構築していった。本来、各取締役は代表取締役の独断専行を牽制・抑止し、取締役会における意思決定に積極的に参加すべき存在のはず。しかし、イエスマンを並べ立てた取締役会では、このスタートアップのガバナンスが機能不全に陥るのは自然の成り行きだった。

子飼いの社員を取締役に抜擢

「この危機的な状況では、これまで明日も見通せない中で奮闘してきた創業メンバーが取締役にふさわしい」

新任の取締役候補者は、社外だけでなく、社内にもいた。海外法人を立ち上げた経験のある比較的若い創業メンバーを取締役として社内昇格させたのだ。社長が主要株主に事前に根回しをして、お墨付きをもらっていたのである。

経営戦略があってこその人材戦略。この順序が大前提となるはずだ。しかし、自身に都合の良い布陣を目的にした抜擢人事……そんな人事に辻褄を合わせる経営戦略では、うまくいくはずがない。事実、「海外展開を加速させる」という経営戦略とともに、社内発信された創業メンバーの取締役登用であったが、以降、数年経った今日まで新たな海外への事業展開は実現されていない。

創業社長になびかない社外取締役を退任に追い込み、自身の色が付いた新たな社外取締役を招き入れたうえ、創業メンバーである子飼いの社員を取締役に昇格させた。それが体制変更に納得していない創業社長の出した結論だった。

ここから数カ月間、社内は悲惨な状況に陥っていたという。一時は副社長らによる改革に期待した若手メンバーを中心に退職者が続出。櫛の歯が欠けたように社員が去り、日常業務にも差し障りが出るほどに。しかし、創業社長による“自分のための王国”は安泰となった。言い換えれば、当初、反旗を翻した主力メンバーの詰めが甘かったのである。

しかし、問題はそればかりではなった――。

株主「ベンチャーキャピタル」の存在意義 多数の…
1 2

ランキング記事

【PR】内部通報サービス無料オンデマンドセミナー

ピックアップ

  1. 【会計士「自主規制」機能喪失#2】監督当局の手に落ちた”会計プロフェッション”の倫理基準…

    (#1から続く)会計士を“閉鎖的社会における専門家集団”のように扱い、プロフェッションとしての自主規制を有名無実化させようとする国際会計士倫…

  2. 【会計士「自主規制」機能喪失#1】会計士の“職域”を溶かす「サステナ情報保証」という外圧…

    《過度な節税指南に待った 会計士倫理の国際組織が新基準 議長「企業の評判にリスク」》――。日本経済新聞(6月27日付朝刊)にこんなタイトルの…

  3. ブラジル「改正独禁法」解説《後編》現地弁護士が教える改正のポイント…

    レオポルド・パゴット(Leopoldo Pagotto):弁護士(ブラジル在住) (前編から続く)ブラジルにおける競争法の最新事情について、…

  4. 【経営者と女性スキャンダル#5】醜聞が明るみに出た“マル恥”企業トップ10人…

    (特集#1、#2、#3、#4から続く)「愛人を持つことは男の甲斐性」などと言われた時代もあったようだが、いまやそれは大昔の話。「コーポレート…

  5. 今さらの「政策保有株削減」に経営改革は期待できるか【ガバナンス時評#19】…

    八田進二:青山学院大学名誉教授 3月末までに開示された東証プライム上場企業のコーポレートガバナンス報告書を集計したあずさ監査法人によると、プ…

  6. ブラジル「改正独禁法」解説《前編》現地弁護士が教える改正のポイント…

    レオポルド・パゴット(Leopoldo Pagotto):弁護士(ブラジル在住) 今回は、ブラジルにおける競争法の最新事情をお伝えしたい。著…

あなたにおすすめ

【PR】内部通報サービスDQヘルプライン
【PR】日本公認不正検査士協会 ACFE
【PR】DQ反社チェックサービス