シャープ早川徳次「まねされる商品をつくれ」の巻【こんなとこにもガバナンス!#29】
栗下直也:コラムニスト
「こんなとこにもガバナンス!」とは(連載概要ページ)
「まねされる商品をつくれ」
早川徳次(はやかわ・とくじ、日本の経営者)1893~1980年。1915年、シャープペンシルを開発して発売。24年、大阪に早川金属工業研究所(現シャープ)を設立し、ラジオを製造。52年に国産第一号のテレビを発売、54年には世界初の電子式卓上計算機を開発した。「まねが競争を生み、技術を底上げし、社会の発展につながる」とも語っている。
シャーペンから家電の世界的ブランドに成長
時代の先端を走る者は決して理解されない。理解されるようなものであれば、誰もが生み出せるからだ。とはいえ、ただただ奇抜なものでは誰にも受け入れられないし、あまりに早すぎても時代は歓迎しない。
1915年に早川が金属製の“繰り出し鉛筆”を考案した際も批判は少なくなかった。むしろ不評だった。
「鉛筆は木製だろ」という既成概念だけでなく、「金属は冬に使うと寒い」という指摘すらあった。ほとんど難癖だったが、早川は改良に改良を重ね、欧米に輸出するほどの製品に育て上げた。これが「シャープペンシル」の誕生秘話だ。
早川の先取の精神はその後も発揮され、国産初のテレビや電子レンジ、世界初の電子式卓上計算機を世に送り出した。
その精神は早川が死去してもシャープという会社に根付いていて、1990年代以降も、モニターを見ながら撮影できるビデオカメラ「液晶ビューカム」、スマホの先取りともいわれた「ザウルス」、液晶テレビ「アクオス」やカメラ付携帯電話など画期的な商品をつくり続けた。
台湾ホンハイに買収されたシャープが物語るもの
早川の言葉通り、他社がこぞって真似する商品を市場に投入した。特に液晶テレビは生産地の三重県亀山市にちなんで「亀山モデル」と呼ばれ、シャープの代名詞となった。
だが、成功体験が大きすぎた。早川のように常に次の一手を考えて、打たなかったことで、シャープは2016年、台湾の鴻海精密工業(ホンハイ)に買収された。
勝ち方が決まると、ビジネスモデルは変えにくくなる。うまく機能する組織や制度など、ガバナンスも同じだ。だが、変えなければ時代に取り残されることは多くの企業の失敗が物語っている。
(月・水・金連載、#30に続く)
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