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織田信長「見た目にいかにも器用そうにふるまう者は、実は無分別の真っ盛り」の巻【こんなとこにもガバナンス!#9】

栗下直也:コラムニスト
「こんなとこにもガバナンス!」とは(連載概要ページ)

見た目にいかにも器用そうにふるまう者は、実は無分別の真っ盛り
織田信長(おだ・のぶなが、戦国時代の武将)

1534~1582年。織田信秀の子。1560年、桶狭間で駿河(静岡県)の大大名、今川義元を討って尾張一国(愛知県)を統一する。68年、京都に上る。浅井氏・朝倉氏を破り、比叡山を焼く。73年に将軍足利義昭を追放し、75年には武田勝頼を長篠の合戦で破る。76年に安土城を築き、天下統一の足場を固める。毛利氏征伐の出陣の途中、京都・本能寺で明智光秀の謀反にあって自刃して果てる。

過激な逸話で有名だが、考えは意外とまともな織田信長

織田信長は大河ドラマを筆頭に現代のドラマや映画で欠かせない戦国武将である。

特に近年はエキセントリックなヤバいリーダーとして描かれがちだ。2023年に公開された北野武監督の映画「首」では加瀬亮が演じていたが、刀の先にまんじゅうをつけて部下に咥えさせ、口を血まみれにさせたりしていた……さすがにやりすぎである。「こんな上司、年収3億円もらってもムリ」と感じた人は私だけではあるまい。

ただ、信長は単なる“人格破綻者”であったわけではない。「意識的にやっていたのでは?」との指摘もある。国主(一国以上を持つ大名)とはどうあるべきかの部下との問答が興味深い。

信長が長男・信忠の評判を部下に尋ねる。部下は「一段とご器用な方です。みんなもそう申しております」と答えた。信長が「それはどういうところか?」と重ねて聞くと、部下は「お客来の時などは、この人へは馬、またあの人へは物具小袖などを与えられるであろうと思っておりますと、その通り仰せ出されます」と理由を答えた。

これに対して信長は非常に不服そうな表情を示す。

「そんなことを、どうして器用などと言えるか。それこそ不器用というものだ。とても儂(ワシ)の後を継ぐことはできそうもないな」と切り捨てた。

戦もビジネスも人間関係も「逆張り」が有効なこともある

部下は意味が分からず困惑していると信長はこう説明した。

「そのわけはこうだ。部下の者の予想を破って、刀をくれるだろうと思っているところに小袖をやったり、馬をやるだろうと思っているところに別の物を取らせる。この人へは重い物を賜るようなことはないと、取り沙汰している時、その者に金子(きんす)をどっさり取らせるというようなことこそ、国持大将のなすべきことなのだ」

そして、信長はそうした姿勢の重要性は部下との関係にとどまらないと続けた。

「たとえば敵を攻めるのに、この辺に加勢が出るだろうと相手が考えるようなところには少しも出さず、まさか出てはこまいと思っているところには、ひょっこり出て敵に骨を折らせてこそ利が得られるのである。敵が待ち構えているようなところに、ぴたりぴたりと出たりしては、どうして勝利が得られようぞ。見た目にいかにも器用そうにふるまう者は、実は無分別の真っ盛りというべきなのだ。武士はありきたりの手段を取らずに、下から予想されぬのが本当の大将なのだぞ」

時に、あえて“逆張り”をする。部下の口を刀で血まみれにするかどうかはともかく、現代の事業戦略でも欠かせない視点だ。

※信長の発言の現代語訳は『名将言行録現代語訳』(岡谷繁実、訳:北小路健、中澤惠子、講談社)を参照。

(月・水・金連載、#10に続く)

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